知財高裁(平成21年11月26日)“衣類のオーダーメイド用計測サンプル事件”は、「特許に無効理由がある場合における職務発明報酬対価請求訴訟における対価の算定については、次のように解するのが相当である」、「特許法は、登録により成立した特許権の消滅事由につき、特許権自体が内包する瑕疵に基づく事由としては、特許庁による無効審決の確定(特許法125条)しか定めておらず、それ以外の消滅事由はいずれも特許権の瑕疵とは無関係な事由(存続期間の満了[67条]、特許料の不納付[112条4項]、相続人の不存在[76条]、特許権の放棄[97条1項])にすぎないのであって、現実に無効審決が確定するまでは、その存続中、当該特許発明を実施(許諾又は禁止)する権利を専有することができる(68条)から、たとえ特許権に無効理由があったとしても、当該特許権の行使の結果生じる独占の利益を享受できることは当然のこととして許容されるのである。そして、旧35条3項及び4項(サイト注:現4項及び7項)の趣旨が、従業者等が、特許を受ける権利等の譲渡時において、当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について、これを当該発明をした従業者等において確保できるようにしたものであることに鑑みれば、当該特許権を実施して現に得た利益について、特許権に無効理由があるからといって上記使用者等が得るべき発明の独占実施による利益から殊更に除外し、これを使用者のみに留保・帰属させることを正当化できる理由はないというべきである。また、有効な特許を受ける権利等の存在を前提にこれの譲渡を受け、自ら特許権を取得して実施してきた使用者等が、職務発明報酬対価請求訴訟を提起されるに至って殊更に無効理由の存在を主張して当該利益の従業者等への配分を免れようとすることは、特許を受ける権利等を譲り受けたときにはおよそ予定していなかった事情を主張するもので、禁反言の見地からも容認できるものではない。したがって、職務発明報酬の対価額算定という場面においては、使用者等が特許権を現に実施して利益を得ている場合には、無効理由が存在するためおよそ独占の利益の発生を考慮できないような例外的な事情のない限り、当該利益には特許権に基づく上記利益を含むと認めるべきである」、「もっとも、特許権の通常実施権設定交渉(ライセンス交渉)を行う場面等においては、相手方から無効理由の存在を指摘されるなどして実施料が減額されたり、ライセンス交渉自体が拒絶されることがあり得るところであり、したがって独占の利益を算定する前提としての仮想実施料率を決する場面においては、無効理由の存否がその多寡に影響を与えることがあり得るということはできる。しかし、ライセンス交渉等の場面における無効理由の主張は、いざ交渉が決裂した場合に双方から提起されるかもしれない特許権侵害訴訟ないし無効審判において無効判断がなされる可能性があることを指摘するという、いわば仮定的・暫定的なものにすぎず、しかも無効審判手続における訂正の手続等、制度的にも無効理由を回避する手段が留保されていること等を考慮すると、無効理由の指摘自体、その根拠が確定的とまではいい難い場合もあり得る。これらの事情に鑑みれば、無効理由の有無に関する事情は、仮想実施料率を認定するに当たり総合考慮すべき諸事情の中の一要素となり得るとしても、その影響を過大視することはできない」、「一審被告は、本件発明1について無効理由が存在することは確定し、本件発明2にも無効理由が存在するから、仮想実施料率は1%以下とすべきであると主張し、これに対し一審原告は、本件各発明は過去に類を見ないユニークなもので、劇的な業績向上に見られるようにその技術的・経済的価値は極めて高いから、仮想実施料率は5%をもって相当とすべきであると主張する。よって検討するに、・・・・本件発明1の内容、・・・・HMS商品(サイト注:本件各発明が売上げに寄与した商品)の売上実績に、本件特許1については無効審決が確定しており無効理由があると認められること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件特許1の仮想実施料率はHMS商品の売上額(通常実施権相当額50%を除いたもの)の2%をもって相当と認める。また、・・・・本件発明2の内容、・・・・HMS商品の売上実績に、・・・・本件特許2については無効理由があるとは認められないこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮して、本件特許2の仮想実施料率はHMS商品の売上額(通常実施権相当額50%を除いたもの)の3%をもって相当と認める」と述べている。 |