東京地裁(平成1年2月5日)“ビリルビン測定方法事件は、「被告が製造販売する本件試薬は、本件発明の方法の使用にのみ用いる物(専用品)であること、このように被告は、本件発明の方法の使用にのみ用いられる物の製造販売を自ら行い、その製造販売について国内及び国外を問わず第三者に許諾したことはないことが認められる」、「本件発明の使用にのみ用いる本件試薬の売上げを基にして『発明により使用者等が受けるべき利益』を算定するに当たっては、被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に独占し、第三者による製造販売を排除したことにより得られたものと認められる本件試薬の売上高、すなわち、特許法5条1項に基づく通常実施権を有することにより販売し得たと認められる売上高を上回る売上高(超過売上高)に係る分について、第三者に本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を許諾した場合に得られる実施料を算定するのが相当であると解される。具体的には、本件試薬の売上高のうち、その排他的、独占的な販売に基づく超過売上高に係る分はいくらであるか、その超過売上高に係る分を第三者に許諾した場合に得られる想定実施料(超過売上高に係る分に想定実施料率を乗じた額)はいくらであるかを認定し、本件試薬の販売による独占の利益を算定するのが相当である」、「@ビリルビン測定試薬における被告の市場占有率は、被告がバナジン酸法による本件試薬の販売を開始したことにより、被告がジアゾ法試薬のみを販売していた昭和63年ないし平成元年ころ当時よりも高くなったこと、Aビリルビン測定試薬として従来から使用されてきたジアゾ法や酵素法が、バナジン酸法の代替技術として存在し、各測定方法を使用する施設割合では、酵素法を使用する施設とバナジン酸法を使用する施設とが概ね同程度の割合を占め、平成4年度から平成8年度の5年度にわたりその施設割合に大きな変動がみられないことからすれば、ビリルビン測定試薬の市場においては、バナジン酸法によるビリルビン測定試薬と酵素法によるビリルビン測定試薬の使用者の棲み分けが概ね固定化しつつあることが認められる。以上の@、Aの認定事実及び本件に現れた諸般の事情を考慮すると、被告の本件試薬の売上高のうち、被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に独占し、第三者による製造販売を排除したことにより得られたものと認められる超過売上高に係る分が占める割合は、0%と認めるのが相当である」、「被告は、本件特許権の想定実施料率(仮想実施料率)は、被告の近時のライセンス契約における実施料率の平均値である2.5%程度である旨主張する」、「しかし、これらのライセンス契約の対象となる特許権の内容や実施権の範囲等の事情が明らかではなく、・・・・平均値をもって直ちに本件における仮想実施料率として採用することはできない。もっとも、被告の上記主張によれば、被告は、被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を第三者に許諾した場合の実施料率について、これが2.5%程度であるとの限度において認めているものと解される。この点に加えて、本件発明が、自動分析装置への応用が可能であり、ジアゾ法との相関が良く、測定試液の安定性に優れ、且つ試料中の共存物質による測定値への影響が少ないビリルビンの測定方法ニーズに応える技術であること・・・・、一方で、本件発明には、ジアゾ法や酵素法といった代替技術が存在し・・・・、本件発明がパイオニア発明であるとまではいえないこと等の諸事情を総合すると、本件における仮想実施料率は3%と認めるのが相当である」と述べている。

特許法の世界|判例集