大阪地裁(平成1年47日)“開き戸の地震時ロック方法事件被告は、本件各特許発明には機能的表現が用いられているから、その技術的範囲を本件実施例に限定して解釈すべきと主張する。たしかに、本件各特許発明に係る特許請求の範囲のうち『係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する』地震時ロック装置との記載(構成要件C)及び『使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた』ロック位置との記載(構成要件E)は、いずれも具体的な構成ではなく、作用的、機能的な表現で記載されているものと認められる。このように、特許請求の範囲の記載が作用的、機能的に記載されている場合、発明の外延が不明確になりがちであり、またこれを文言どおりに解すると明細書で開示された技術思想に属しない構成までもが技術的範囲に含まれることになりかねず妥当でない。しかし、他方で、被告が主張するように、特許請求の範囲が作用的、機能的に記載されているからといって、明細書の発明の詳細な説明に開示された実施例のみに限定されると解すべきではなく、明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識し得る技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を定めるのが相当である。そこで、上記の観点から、まず構成要件Cについて、その技術的範囲を検討することとする」、本件明細書で上記構成を具体的に開示していると解される部分は、実施例の記載としての段0006及び図1ないし図4のみであるところ、これらの記載からすれば、地震のゆれが直接、係止手(4に作用し、地震のゆれによって係止手(4が自ら移動することによって、係止(4aが係止(5の係止(5bに到達するとの技術思想が開示されていることが認められる。また、かかる実施例の記載を受けて『係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し』との構成に係る技術思想を説明したと解される段0008においても『可動な障害物(中略)としての係止手(4について該障害物自体を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置』と記載されており、他の部材を介して係止手(4が移動することは開示も示唆もされていない。よって、本件各特許発明においては、地震のゆれによって係止手段が自ら移動するとの技術思想が開示されているというべきである。そうすると、構成要件Cの『係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し』というためには、少なくとも地震のゆれによって係止手段が自らロック位置に移動する構成であることを要するというべきである」、「この点、原告は、原出願明細書の記載(図6ないし図9)を参酌して本件各特許発明を解釈しようとする。しかし、同明細書図6ないし図9に開示の球は、本件各特許発明の係止手段に相当するものであるが、これらの球は本件明細書には記載されておらず、また、このように球を用いる構成が周知技術であることを認めるに足りる証拠もない。したがって、かかる当業者にとって自明でない構成について、本件明細書に記載されていない原出願明細書の記載をもって本件各特許発明の技術的範囲の解釈を補うことは許されないというべきである」、被告各物件は、他の部材である(3を積極的に利用して係止手段たるアー(4をロック位置まで移動させ、これを保持するものであるから、本件各特許発明におけるような地震のゆれによって係止手段が自ら移動する構成とは異なるものというべきである。したがって、被告各物件は、構成要件Cの『該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し』との要件を充足するとは認められない」、以上より、被告各物件は、いずれも少なくとも構成要件Cを充足しないから、他の構成要件について判断するまでもなく、被告各物件は本件特許発明1の方法に用いられるものとは認められず、被告各物件を備えた家具や吊り戸棚が本件特許発明3及び4の技術的範囲に属するとも認められない」と述べている。

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