知財高裁(平成1年65日)“簡易レタリングテープ作製機事件「一審被告は、平成7年から平成8年にかけて第1発明〜第3発明、第5発明につき特許法107条に定める特許料(いわゆる『年金)を支払わないこととし、権利を放棄したことになるが、これらはいずれも一審原告らが本訴を提起し、職務発明の対価請求をなしている中でなされたものである。そして、本件において、当該特許権等を維持することが殊更に一審被告の不利益に該当すると解すべき事情は見当たらないから、少なくとも職務発明の対価算定に当たっては、その権利放棄をもって一審原告らに対抗し得ないものと解すべきであり、権利放棄後の期間についても超過売上高の発生を観念し得るというべきである。この点、一審被告は、平成4年1月ないし平成5年1月ころに権利放棄決定時の返還希望調査を行い、一審原告らがその返還を希望しなかったこと(この点は当事者間に争いがない)をもって上記権利放棄が合理的な手続を経たものである旨主張するが、本訴の経緯に鑑みれば一審原告らは本訴提起後において権利返還の申し出があればこれを受ける意思を有していたことは明らかであるから、上記のような返還希望調査の結果のみをもって権利放棄を正当化し得るものではない。したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。また一審被告は、上記各発明の権利放棄の理由について、無効事由が確認されたから放棄した旨主張するが、かかる理由は、第3発明を除き、一審被告社内における決裁の理由と矛盾するものであって・・・・、到底採用できないし、また仮に一審被告において無効事由があると判断したとしても、当該無効事由について現に一審原告らが争っている以上、これをもって上記放棄を正当化する理由とすることはできない。したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。なお原判決は、第3発明及び第5発明については無効事由の存在を理由として、また第1発明は販売額が少なく、かつ減少傾向が続いていることを理由として、いずれも権利放棄の合理性を肯定しているが、一審原告らが当該権利について職務発明対価請求を行っているという特殊性を考慮すれば、上記のような事情のみで合理性を肯定することはできない。したがって、・・・・第1、第3及び第5発明のいずれについても、当該権利が本来の満了期間に達するまで超過売上げの発生があるものとして扱うこととする」と述べている。

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