知財高裁(平成21年6月25日)“簡易レタリングテープ作製機事件”は、「特許権者が、当該特許発明を実施しつつ、他社に実施許諾もしている場合において、当該特許発明の自己実施分について、実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことにより超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては、事案により異なるものということができる。すなわち、@特許権者は特許法旧35条1項により、自己実施分については当然に無償で当該特許発明を実施することができ(法定通常実施権)、それを超える実施分についてのみ『超過売上げを得たことに基づく利益』を算定することができるのであり、通常は50〜60%程度の減額をすべきであること、A当該特許発明が他社においてどの程度実施されているか、当該特許発明の代替技術又は競合技術としてどのようなものがあり、それらが実施されているか、B特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針を採用しているか、あるいは、特定の企業にのみ実施許諾をする方針を採用しているか、などの事情を総合的に考慮して、特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである」、「本件被告製品(サイト注:ラベルライター本体とテープカセット)は、競合製品である非ラミネートテープ方式のラベルライターが市場に現れるまでは同市場を独占し、また非ラミネートテープ方式のものが現れた後も市場内において一定の売上げを確保していること、しかも、ラミネートテープ方式によるラベルライターは非ラミネートテープ方式に比して高価であるにもかかわらずこのように売上げを確保し、国内のラベルライター市場においては後発である一審被告の自社ブランドでさえ順次シェアを拡大していること、欧州や米国においては、一審被告は大きなシェアを確保していること、技術的観点からみても、本件ラミネートテープは非ラミネートテープに比して印字の耐久性・保存性において優位性があり、・・・・上記のようなシェアの確保、ひいては売上げに少なからぬ貢献をしていることが認められる。もっとも、・・・・平成11年ころまでには、競合製品である非ラミネートタイプのラベルライターが市場において確固たる地位を獲得し、遅くともそれ以後の本件被告製品の売上げにおいては、特許権等の法的独占力以外の要素の占める割合が増大したものと認めることができる。以上の諸事情を総合考慮すれば、本件被告製品の売上げにおいてそれを構成する発明による超過売上高の割合は、平成11年3月31日までの対象期間は50%、平成11年4月1日以降の対象期間は40%と認めるのが相当である」、「超過売上げに基づき特許権者等が受ける利益は、超過売上高に一定の利益率を乗ずることにより算定される。本件の場合に一審原告ら主張の割合である●%を用いることができない・・・・場合には、その代替的方法として、特許権侵害訴訟における損害額算定方法である特許法102条3項の趣旨を考慮して、仮に当該特許権者等が第三者に実施させたときに得られるであろう実施料率(仮想実施料率)に基づき算定することも許されると解する。そして、上記のような仮想実施料率の認定に際しては、当該特許権等を具体的に念頭に置いて行うべきであり、とりわけ当該特許権等を自己実施に併せて第三者実施もしているときはそのときの現実の実施料率を参酌すべきものと解するのが相当である」、「キングジム契約、カシオ契約及びダイモ契約の経緯によれば、ラミネートタイプのラベルライターに関する実施許諾においては、対象となる権利について無効事由の主張がされたことがあったにもかかわらず、最終的に、キングジム契約においてはラベルライター本体については販売価格の●%、テープカートリッジ等の消耗品については販売価格の●%の実施料を支払うという内容で、カシオ契約においては本体・テープカセットとも販売価格の●%の実施料を支払うという内容で包括的な実施許諾がなされ、またダイモ契約においては本体につき●%、テープカセットにつき●%の実施料を支払うという内容で和解がなされ、これらのいずれについても許諾期間中に実施料率の変更はなされたことを認めるに足りる証拠はない。そして、・・・・本件各特許における無効事由の有無、・・・・各発明に対する評価、・・・・本件被告製品を構成する特許ポートフォリオ等の諸事情を総合考慮すれば、本件被告製品を構成する特許ないし実用新案全体に対する関係における仮想実施料率は、本体・テープカセットとも5%と認めるのが相当である」、「本件被告製品・・・・に含まれる発明は本件各発明だけでなく、一審被告が有するに至った他の数多くの発明ないし特許権等が含まれており、これらが一体となって上記超過売上高算定の基礎となっているものであるから、以下、上記各発明の中における本件各発明の寄与度について検討する」、「一審被告保有権利は、いずれもラミネート発明を基礎としつつ、これとともに用いられて他社製品との差別化に寄与する点において有用な発明と位置付けることができる。他方、・・・・ラミネート発明の技術的意義ないし優位性や・・・・ラミネート発明に至る経緯及びその後の製品化に至る経緯、販売状況等に加え、・・・・一審被告保有権利の内容に鑑みれば、ラミネート発明をいわば基本特許と位置付けることができるのであって、これとの対比でみると、・・・・実施を認めた個々の一審被告保有権利の寄与度は、ラミネート発明よりはるかに低いといわざるを得ない」、「ラミネート発明(第2発明、第5発明、海外特許1〜3)を実施する本件被告製品における同発明の寄与度は、本体・テープカセットとも、次のとおりと認めるのが相当である」、「日本国内販売分」、「平成5年支払分まで60%」、「平成6年支払分から平成11年支払分まで(概ねラベルライター市場が飽和状態に達するまでの期間)55%」、「平成12年支払分以降50%」と述べている。 |