東京地裁(平成22年10月8日)“意匠事件”は、「本件において、原告は、本件出願と同時に本件共同体意匠出願を基礎とするパリ条約による優先権の主張をしたものの、優先権証明書提出期間内に提出した本件提出書の添付書類は、OHIMが発行した優先権証明書の原本ではなく、その一部(表紙を含む2枚)を複写したもの及びその訳文であった。意匠法15条1項が準用する特許法43条2項は、パリ条約4条D(3)の規定を受けて、優先権証明書について『最初に出願をし・・・・たパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、・・・・及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する・・・・証明書であってその同盟国の政府が発行したもの』の提出を要求しており、『写し』等の提出で足りるものとはしていないから、パリ条約による優先権主張の手続において提出することが要求される優先権証明書は、同盟国の政府が発行した優先権証明書の原本そのものであり、その写しは含まれないものと解される。したがって、優先権証明書の原本を複写したものは、法令の規定による優先権証明書とは認められないから、本件提出書に係る手続は、意匠法15条1項、特許法43条2項の規定に反する不適法な手続であり、原告は、その後、優先権証明書提出期間(平成20年6月12日まで)内に優先権証明書の原本を提出しなかったのであるから、本件出願についてのパリ条約による優先権の主張は、その効力を失ったものと解さざるを得ない。そして、このように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について、同期間経過後、優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば、優先権証明書提出期間を定め、その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項、4項の規定の趣旨を没却することになるから、本件提出書に係る手続の瑕疵は、優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であり、もはや補正することはできないというべきである」、「優先権証明書の原本とその写しとの間には、その有する証拠力の点において画然とした差異があるのであるから、写しの提出によって優先権証明書に記載された事項を証明するなどということは考え難いのであって、本件提出書に係る手続について、手続の基本的部分が欠落しているものとして補正することができないことに変わりはないというべきである」、「本件提出書に係る手続は、補正することができない不適法なものであるから、意匠法68条2項、特許法18条の2第1項の規定に基づき、同手続を却下した本件処分が違法であるとは認められない」と述べている。 |