東京地裁(平成2年26日)“ソリッドゴルフボール事件認定事実を前提に検討するに、@・・・・ゴルフボールの販売個数の市場占有率のうち、他社メーカーの市場占有率分の数量は、被告の侵害行為の有無に影響されるものではないと考えられるところ、被告を除く市場を仮定した場合の他社メーカーの市場占有率は(省略●であること、A平成5年から平成9年までの間の原告及び被告の上記市場占有率には大きな変動がみられないこと、B上記市場占有率にはメーカー各社の営業努力及びブランド力が反映されているものと推認されること、C被告作成の製品カタログ・・・・では『PRO V1(被告製品@、Eと同じシリーズ)、『PRO V1x(被告製品A、Fと同じシリーズ)、『NXT TOUR(被告製品C、Hと同じシリーズ)、『NXT(被告製品B、Gと同じシリーズ)、『DT SoLo(被告製品D、Iと同じシリーズ)について、本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向上をセールスポイントとして挙げており・・・・、このセールスポイントがユーザーが上記各製品を購買する動機付けの1つとなっているといえること、Dユーザーがゴルフボールを選択する際、ゴルフボールの性能(飛距離性能、スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが・・・・、一般のユーザーはゴルフボールの性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれること(・・・・ゴルフダイジェスト及び週間ゴルフダイジェストにおいては、ゴルフボールの性能等が類似する製品を対比して紹介しているが、性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等についての説明はみられない。)、以上@ないしDの事情を総合考慮すると、・・・・被告各製品の譲渡数量のうち、0%に相当する数量については、被告の営業努力、ブランド力、他社の競合品の存在等に起因するものであり、被告による本件特許権の侵害がなくとも、原告が原告各製品を『販売することができないとする事情』があったものと認めるのが相当である。したがって、・・・・被告各製品の譲渡数量のうち、0%に相当する数量に応じた額を、原告の損害額から控除すべきである」、これに対し被告は、原告各製品(5種類)が特許法102条1項本文の『侵害の行為がなければ販売することができた物』であることを前提に、その『単位数量当たりの利益の額』を基に損害額を算定する以上、同項ただし書の『販売することができないとする事情』としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮する際には、上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきであり、当該市場占有率を超える部分は、他の製品が代替して販売されたものと評価すべきである旨主張する。しかし、@ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は、市場占有率に反映されているといえるが、それを適切に評価するためには、ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると考えられること、A本件においては、原告各製品と競合する他社メーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされていないなど、被告各製品の譲渡数量のうち、原告各製品の市場占有率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できることを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば、被告の上記主張は採用することができない」、以上を総合すれば、被告の本件特許権の侵害による原告の特許法102条1項の損害額(逸失利益)は、別紙損害額一覧(逸失利益)の『譲渡数量』欄記載の各数量に『単位当たり利益の額』欄記載の金額を乗じた額から・・・・原告が『販売することができないとする事情』に相当する数量に応じた額を控除した額、すなわち、上記乗じた額に『ただし書の数量控除後の割合』欄記載の割合(100%−0%=0%)を乗じて算出した『損害額』欄記載の金額(合計7億0198万3531円)であることが認められる」と述べている。

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