東京地裁(平成2年7月8日)“記録光学系事件包括クロスライセンス契約の締結交渉においては、多数の特許発明等のすべてについて、逐一、その技術的価値、実施の有無などを相互に評価し合うことは不可能又は著しく困難であることから、相互に一定件数の相手方が実施している可能性が高い特許や技術的意義が高い基本特許を相手方に提示し、それらの提示特許に相手方の製品が抵触するかどうか、当該特許の有効性及び実施品の売上高等について協議することにより、提示特許のうち相手方製品との抵触性及び有効性が確認された代表特許と対象製品の売上高を比較考慮すること、互いに保有する特許の件数、出願中の特許の件数も比較考慮することにより、包括クロスライセンス契約におけるバランス調整金の有無などの条件が決定されるのが通常であり、代表特許は包括クロスライセンス契約に多大な貢献をしているといえる。しかし、代表特許や提示特許でなくとも、包括クロスライセンス契約の対象に含まれ、かつ、その契約締結時に相手方によって実施されていたことが立証された特許については、当該包括クロスライセンス契約に寄与しているものといえるから、その実施許諾により得た利益の額を考慮すべきであり、また、このような相手方実施特許が当該包括クロスライセンス契約に寄与した程度(寄与度)は、その特許発明の技術内容、相手方の実施割合、代替技術の存在及びその実施割合等を総合的に考慮して決するのが相当であると解される」、「被告が本件基準期間(サイト注:本件発明が出願公開された昭和1年5月2日から本件特許権の存続期間が満了した平成0年4月8日)内に保有する登録特許のうち、除外特許等(サイト注:包括クロスライセンス契約の対象に含まれない特許等)を除く登録特許件数の平均は、LBPにつき7849件、MFP等につき1万2417件である・・・・。そして、本件基準期間内において、新たに特許登録されたり、又は、存続期間の満了等により登録特許の権利消滅が生じること、本件基準期間が約2年であること及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件基準期間において対象となる被告保有特許数は、被告が主張するように、上記件数の5分の3の件数、すなわち、LBPにつき4709件、MFP等につき7450件と認めるのが相当である」、「本件発明は、すべての被告ライセンス契約の対象特許群に含まれていたが、本件発明がライセンス契約締結時において、代表特許又は提示特許として相手方に提示されたことはなかったものであるが・・・・、本件発明は、本件基準期間内において被告の全ライセンシーの製品に実施されていたのであるから・・・・、被告ライセンス契約における本件発明の寄与度を考慮すべきである。そこで検討するに、@本件発明は、半導体レーザーを光源とする記録光学系において、偏向器と対物レンズの間で光束がコリメートされているところに設けた絞りにより感光媒体上におけるビームスポツトの形状が、走査方向の長さに比して走査方向と直交する方向の長さが長くなる様にした構成を採用することにより、良好な記録が得られる(コントラストの高い(走査方向の分解能を向上させた)画像が得られる)という作用効果を奏するとともに、絞りの設定位置に誤差があっても『絞りにより蹴られる光束』の量は変化しないので、光学系の製造が容易になるという作用効果を奏するものであって、本件基準期間内に販売された被告製品のうち、本件発明が実施されている製品の実施割合が9.3%と高率であり、被告の全ライセンシーにおける製品の実施割合も2.1%に及ぶこと、A本件発明は、被告の社内において、実績等級において1級と評価され、優秀社長賞も付与されるなど高く評価されていたものであること、B一方、LBP及びMFP等は、様々な種類の多数の技術(特許)が複合されて初めて商品化が可能となる製品であり、これらの技術が複合的に使用されることによって莫大な独占の利益を生み出すことができるものであって、個々の特許を抽出した場合、代表特許ではない単なる実施特許について、ライセンス契約全体に対し多大な貢献をしているものとまでみることは相当ではないこと、C本件発明については、他に代替の余地のない技術とまでいうことはできず、現に一体成型法による代替技術が存在し、他の手段によって回避されることがあるものの、その代替技術は、本件発明よりも明らかに優位な技術であるとまでいえず・・・・、本件基準期間内において、本件発明を明らかに上回る技術が存したとも認められないこと、以上の@ないしCの諸事情を総合的に考慮すれば、本件発明は、被告ライセンス契約における本件基準期間内において、被告保有特許(LBPにつき4709件、MFP等につき7450件)のうちの1件に対し、0件分の価値を有するものと評価するのが相当である(サイト注:寄与度は、LBPにつき0/470MFP等につき0/745となる」と述べている。

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