東京地裁(平成22年7月8日)“記録光学系事件”は、「当事者双方が多数の特許発明等の実施を相互に許諾し合う包括クロスライセンス契約は、相互に無償で実施を許諾する特許発明等とそれが均衡しないときに支払われる実施料の額が総体として相互に均衡すると考えて締結されるものと解されるから、当事者の一方が自己の保有する特許発明等の実施を相手方に許諾することによって得た利益は、相手方が自己の特許発明等を実施することにより、本来、相手方から支払を受けるべきであった実施料の額と相手方から現実に支払われた実施料の額との合計額を基準として算定することも合理的な算定方法の1つであると解される」、「被告はほとんどすべての競合他社との間で包括クロスライセンス契約の一種であるライセンスバック契約を締結していること、ライセンスバック契約の有償部分の実施料率の定めは、被告と各相手方との特許力の差異を反映して契約の相手方ごとに異なる数字となっていることに照らすならば、各相手方とのライセンス契約における各相手方の個別の特許力を具体的に考慮検討することは、その審理に著しい負担を要し、極めて困難であるといわざるを得ない。一方、ライセンスバック契約の無償部分においては、被告が相手方に許諾した特許等と被告が相手方から許諾を受けた特許等が均衡しているものと考えられるが、個々の特許の特許力を具体的に考慮検討することは、同様に、極めて困難であるといわざるを得ない。そこで、本件においては、いくつかの相手方との間における実施料率の平均値をもって有償部分の標準的実施料率とし、無償部分については、個々の特許の特許力を考慮せずに、保有特許数の総和が特許力を示すものとして、算定の基礎とすることも許されるものと解される。以上の諸点に加えて、本件発明を対象とする被告の包括クロスライセンス契約は別件訴訟において判断の基礎とされた被告の包括クロスライセンス契約と重複していることを勘案すると、被告が包括クロスライセンス契約において本件発明により得た利益の額は、別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決(サイト注:平成21年2月26日判決)が採用した算定方法と同様に、被告の全ライセンシーによる本件発明の実施品の譲渡価格に、本件発明の実施料率(『標準包括ライセンス料率』×本件発明の寄与度)を乗じて算定するのが相当である。この『標準包括ライセンス料率』は、ライセンスバック契約の有償部分の標準的実施料率に無償部分を反映させて修正したもの(サイト注:ライセンスバックがない場合に想定される実施料率)であり、@いくつかの相手方との間における実施料率の平均値(有償部分の標準的実施料率)と、A前記実施料率の平均値÷(被告の対象特許数−前記相手方の対象特許数の平均値)×前記相手方の対象特許数の平均値との和である。以上の算定方法は、本件において、被告が主張する算定方法及び原告が主張する算定方法2と基本的に同様である」、「なお、原告が主張する算定方法1は、被告が第三者製品及び被告製品に関して本件特許を単独でライセンスしたと仮定した場合の実施料相当額(被告の得べかりし実施料)をもって本件発明により被告が受けるべき利益の額とし、具体的には、本件発明を実施した第三者製品及び被告製品の出荷相当額に、『通常であれば設定されたであろう実施料率』10%(社団法人発明協会発行の『実施料率』(第4版)・・・・の記載に基づくもの)を乗じて算定するものである。しかし、本件発明は、実際には単独でライセンスされておらず、被告の保有特許等のすべてを対象とした包括クロスライセンス契約の対象特許の1つであるにすぎないこと、原告主張の上記実施料率10%は実際の被告ライセンス契約を反映したものではないことに照らすならば、被告ライセンス契約の内容に基づいて算出した『標準包括ライセンス料率』を基に本件発明を対象とする包括クロスライセンス契約により得た利益の額を算定する上記算定方法の方がより合理的であるといえるから、原告主張の算定方法1は採用することができない」、「被告ライセンス契約中のライセンスバック契約の実施料率の平均は、およそLBPについて2.21%、MFP等について2.61%であり、これに対応する相手方から被告が実施許諾された本件基準期間(サイト注:本件発明が出願公開された昭和61年5月12日から本件特許権の存続期間が満了した平成10年4月28日)内の登録特許の平均件数は、LBPにつき768件、MFP等につき1506件であること、被告保有の本件基準期間内の登録特許の件数はLBPにつき1万1265件、MFP等につき1万6163件であることが認められる。以上から計算すると、被告が本件基準期間内において保有していた、LBP及びMFP等に関するすべての特許の標準包括ライセンス料率は、LBPにつき2.37%、MFP等につき2.88%となる」、「前記・・・・のとおり、被告が包括クロスライセンス契約において本件発明により得た利益の額は、被告の全ライセンシーによる本件発明の実施品の譲渡価格に、本件発明の実施料率(『標準包括ライセンス料率』×本件発明の寄与度)を乗じて算定するのが相当である。そして、被告の全ライセンシーによる本件発明の実施品の譲渡価格は、別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決が採用した算定方法と同様に、被告の全ライセンシーにおけるLBP、MFP等の譲渡価格(被告以外の全他社の譲渡価格合計額×全ライセンシーのシェア)に、本件特許権の効力が及ぶ地理的範囲内に含まれる製品の割合及び全ライセンシーにおける本件発明の実施割合を乗じて算定するのが相当である」、「被告の全ライセンシーの譲渡製品中に占める本件発明の実施割合については、@本件発明が出願公開された昭和61年5月12日から本件特許権の存続期間が満了した平成10年4月28日に至るまでに約12年の期間があること、被告のライセンシーは、十数社に及ぶこと・・・・に照らし、その実施状況を逐一検討することは、その審理に著しい負担を要するものであり、極めて困難であるといわざるを得ないこと、A被告は、全世界のLBP、MFP等の生産及び販売において相当程度のシェアを有しており・・・・、被告における本件発明の実施状況は、業界内での実施状況を相当程度反映しているものと考えられることからすれば、被告製品中に占める本件発明の実施割合を基礎として、被告の全ライセンシーにおける本件発明の実施割合を推認するのが相当である。もっとも、ライセンシーにおいては、自社で開発した技術や公知の代替技術ないし競合技術があれば、自社の開発能力の維持発展やライセンス契約更新時における交渉力維持を図るため、それらの技術を使用する傾向があるものといえるから、被告のライセンシーにおいても、被告よりも本件発明の実施割合が低くなる傾向があるものと考えられる。以上の点に加えて、本件発明の技術内容・・・・、代替技術の内容・・・・等本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、被告の全ライセンシーにおける本件発明の実施割合は、被告の実施割合の90%と推認するのが相当である。そうすると、被告の全ライセンシーの譲渡製品中に占める本件発明の実施割合は62.31%・・・・となる」、「本件発明の実施料率は、LBPについては、被告ライセンス契約における標準包括ライセンス料率である2.37%を4709で除して20を乗じた(サイト注:寄与度4709分の20を乗じた)0.01007%・・・・、MFP等については、被告ライセンス契約における標準包括ライセンス料率である2.88%を7450で除して20を乗じた(サイト注:寄与度7450分の20を乗じた)0.00773%・・・・と認められる」と述べている。 |