知財高裁(平成2年89日)“4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデ-1事件本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること、甲7文献には、本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの、その製造方法について記載も示唆もされていないこと、以上の点については当事者間に争いがなく、かつ審決も認めるところである。そこで、このような場合、甲7文献が、特許法9条2項適用の前提となる9条1項3号記載の『刊行物』に該当するかどうかがまず問題となる。ところで、特許法9条1項は、同項3号の『特許出願前に・・・・頒布された刊行物に記載された発明』については特許を受けることができないと規定するものであるところ、上記『刊行物』に『物の発明』が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。特に、当該物が、新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当該物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである」と述べている。

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