東京地裁(平成23年1月20日)“粒子画像分析装置事件”は、「原告は、臨床検査機器、検査用試薬及び粒子分析機器の製造販売等を業とする株式会社であり、遅くとも平成18年4月以後、被告製品と市場において競合する商品(フロー式粒子画像分析装置)である原告製品を製造、販売及び輸出していることが認められる。そうすると、被告が被告製品を製造、販売することにより、原告は原告製品を販売する機会を失い、原告製品の販売により原告が得ることのできた利益相当額の損害を被ったと推定される(特許法102条1項)」、「被告は、@ 被告製品と原告製品とでは、粒子の測定範囲や測定粒子の比重、対物レンズが各撮像ユニットに固定されているか、測定セルを選択することができるかなどの、具体的仕様が異なり、これらの相違点はユーザーによる装置の購入決定に大きく影響を及ぼしており、被告が販売した被告製品17台のうち13台については、ユーザーが測定を希望する粒子が300μm以上のものであった、又は比重が4を超えるものであったことから、原告製品の仕様ではこれらの粒子を測定することができないため、これらの販売先が原告製品を選択する余地はなかった、A 被告は、被告製品を販売するために、様々な営業活動(販促活動、営業活動、受注活動、受注後の活動)を行っているほか、被告製品のような粒度分布測定機器の販売実績では原告を凌駕する実績を持っており、被告製品を購入した客のすべてが、被告の行為がなければ原告製品を購入したとは断定できない、B この種の機器では、2次元スキャッタ頻度データに基づくスキャッタグラムなのか、通常のスキャッタグラムなのかというデータの表示方法の部分は、製品選択の重要な要因となるものではなく、製品選択の一要素となるにすぎない、として、本件では、原告が原告製品を『販売することができないとする事情』(特許法102条1項ただし書)があると主張する。そして、被告は、同主張を裏付ける証拠として、被告製品の購入先からの注文を受けて被告が作成したという要求仕様書や、購入先が指定した粒子を被告製品を用いて測定した結果を記載した粒度・形状分布測定機PITA−1解析結果等・・・・を提出する。しかしながら、これらの証拠は、肝心の被告製品の販売先(注文者、測定依頼者)の部分が伏せ字となっている上、仕様を要求した目的、仕様の詳細等についての記載も、ほとんどが伏せ字とされている。したがって、これらの証拠だけからは、被告製品の販売先がいかなる目的ないし動機で被告製品を購入したのか、購入に当たって被告製品のいかなる機能を重視したのか、原告製品の仕様では上記目的をかなえることができなかったのか、などといった、原告が原告製品を『販売することができない事情』の有無を判断するに当たって重要な事情については明らかでないというべきである。また、上記証拠の他に、被告の主張を裏付けるに足りる客観的な証拠はない。これに加えて、被告製品と原告製品とは上記のとおり市場において競合する商品であって、販売価格も似通っており、これらの製品と市場において競合する他者の製造販売する商品が存在することをうかがわせる事情もないことなどを考慮すると、本件では原告が原告製品を『販売することができないとする事情』があったとは認めることはできないというべきである。したがって、被告の主張は理由がない」と述べている。 |