知財高裁(平成3年0月4日)“逆転洗濯方法事件刊行物1発明の洗濯機の動力伝達機構と、刊行物2発明の船舶等の二重反転プロペラの動力伝達機構とは、技術分野が相違し、その設計思想も大きく異なることから、洗濯機の技術分野に関する当業者が、船舶の技術に精通しているとはいえず、洗濯機の動力伝達機構を開発・改良する際に、船舶等の分野における固有の技術である二重反転プロペラに類似の技術を求めることは、困難であるというべきである。また、洗濯機は、通常、床面上に設置して安定な状態で使用されるから、撹拌機や内槽の回転によって生じる反トルクの問題を考慮する必要がないことが一般的であると解される。したがって、当業者が、洗濯機の分野では本来的に要求されない二重反転プロペラに関する刊行物2の記載事項を、刊行物1発明に適用することは困難であり、この点を主張する取消事由4には理由がある」、以上の点について被告は、刊行物1発明と刊行物2発明とは、伝動機構である点で同じ技術分野に属するものであり、また、1つの駆動力入力を2つの駆動力出力へと変換する、動力を伝達するという共通した作用、機能を有すると主張する。しかし、解決課題が大きく隔たっている公知技術を組み合わせるに当たって、両者が動力伝達機構という汎用性の高い一般的技術分野に属するとしてその容易性の有無を判断することは慎重でなければならず、被告の主張を採用することはできない。被告は、刊行物2に『主として船舶に用いられる』との記載があるように、この記載は例示にすぎず、その構造上、歯車機構を用いた反転装置自体に、船舶以外の用途に用いることを可能とする汎用性があることは明らかであるとも主張する。しかし、明細書において当該発明を適用する技術分野が例示であると記載されているからといって、すべての技術分野の他の技術が適用容易となるものでないことは明らかであり、本件のように複数の発明を組み合わせて出願された発明の進歩性を否定しようとする場合には、それぞれの発明の技術分野、解決課題、組合せの動機付け等を具体的に検討しなければならない。刊行物1発明と刊行物2発明とは、前記のとおり、技術分野が異なるだけでなく、その解決課題も大きく隔たり、組合せの動機付けも明確でないから、被告の主張は採用することができない」と述べている。

特許法の世界|判例集