東京地裁(平成23年4月8日)“同音語選択装置事件”は、「本件発明1については、被告とE社ないしH社との間の各包括クロスライセンス契約において、代表特許や提示特許とされた事実は認められないものの、各包括クロスライセンス契約の対象に含まれ、かつ、その契約締結時に相手方によって実施されていたことが認められるものといえるから、・・・・各包括クロスライセンス契約の締結に一定の寄与をしているものと認めるのが相当である」、「上記・・・・のとおり、本件各発明のうち、本件発明1については、被告とE社ないしH社との間の各包括クロスライセンス契約において被告が同発明により受けるべき利益の存在を認めることができるところ、・・・・上記利益の額は、上記各包括クロスライセンス契約の相手方が本件発明1を実施することにより、本来、被告が相手方から支払を受けるべきであった実施料の額に基づいて算定することができるものといえる。そこで、被告が、本件発明1の実施を上記各包括クロスライセンス契約の相手方に許諾した場合に、本来、相手方から支払を受けるべき実施料の額について検討するに、このような実施料の額は、本来的には、当該発明の価値や実際の取引実例等の諸般の事情を考慮して、当該発明に係る相当な実施料率を認定し、これに相手方における当該発明の実施品の売上高を乗ずるなどして算出することが必要であるといえる。しかしながら、本件においては、上記各包括クロスライセンス契約の相手方における本件発明1の実施品の売上高等を示す証拠がないから、上記のような算定は行えないこと、原告において、これらの証拠を収集、提出することが著しく困難であることからすると、この点について、原告に過度の立証責任を負わせるのは相当でなく、本件に顕れた証拠等から認め得る事実を前提に、可能な限り合理性のある推認を働かせるなどして、上記実施料の額を算定することも許されるものというべきである」、「本件においては、@被告が、●(省略)●との間で、日本語ワードプロセッサを対象製品、これに関係する被告保有の特許を対象特許とし、●(省略)●が被告に所定の実施料を支払うことを内容とする各ライセンス契約を締結していること・・・・、Aこれらの各ライセンス契約において、本件発明1は、具体的に限定された対象特許のうちの1つ、あるいは、包括的なライセンス契約において、契約交渉の中で具体的に提示され契約書においても明示的に列挙された特許の1つとして扱われるなどしており、これらの契約の締結に相応の貢献をしたものといえること・・・・、B被告は、上記各ライセンス契約に基づき、●(省略)●から、平成8年度に係る実施料として、合計●(省略)●円の支払を受けていること・・・・、C被告が原告へのライセンス補償金を支払うに当たって行った評価等によれば、●(省略)●からの平成8年度分の実施収入合計●(省略)●円のうち、本件発明1の寄与度に相当する部分の額は、約●(省略)●%に相当する●(省略)●円であるといえること・・・・、D平成8年度及び平成9年度当時のワードプロセッサ専用機市場における各社の製品の市場占有率は、●(省略)●の製品の合計が約10%、E社ないしH社の製品の合計が約40ないし45%であること・・・・がそれぞれ認められる。そして、●(省略)●が、いずれもE社ないしH社と同様に、ワードプロセッサ専用機を製造、販売していたメーカーであることからすると、●(省略)●が被告に支払った平成8年度の実施料合計のうち本件発明1の寄与度に相当するものと認められる部分の額とその当時のワードプロセッサ専用機市場における●(省略)●の製品の市場占有率との関係に基づいて、E社ないしH社が被告から本件発明1の実施を許諾された場合に被告に支払うべき実施料の額を算定することにも、相応の合理性があるものということができる。すなわち、一般に、特許発明のライセンス契約に基づく実施料の額は、当該発明の実施品の売上高に所定の実施料率を乗ずるものとして定められるものであり、支払われる実施料の額は、当該実施品の売上高に比例するのが通常である。しかるところ、・・・・平成8年度及び平成9年度におけるワードプロセッサ専用機市場における●(省略)●の製品の市場占有率が約10%であることからすると、●(省略)●は、平成8年度に市場全体の10%に相当するワードプロセッサを売り上げ、これに対応する実施料として合計●(省略)●円を被告に支払ったものであり、そのうちの●(省略)●円が本件発明1の寄与度に相当する部分の額であると認められるものといえる。そして、これを基礎として、E社ないしH社が被告から本件発明1の実施を許諾された場合に被告に支払うべき実施料の額を算定するに、本件発明1を実施してワードプロセッサ市場全体の10%に相当するワードプロセッサを売り上げた場合の1年間当たりの実施料額を●(省略)●円と算定することができること、他方、平成8年度及び平成9年度当時のワードプロセッサ専用機市場におけるE社ないしH社の製品の市場占有率は約45%と認められること・・・・からすると、平成8年度分及び平成9年度分に係る上記実施料の額は、次のとおりと算定される」、「平成8年分 ●(省略)●円×45%/10%=●(省略)●円」、「平成9年分 ●(省略)●円×45%/10%×8/12=●(省略)●円」、「なお、上記で8/12を乗じたのは、平成9年度(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)の期間のうち、本件特許1の存続期間(平成9年11月24日まで)が約8か月であることを考慮したものである」、「以上によれば、被告がE社ないしH社との間の各包括クロスライセンス契約において本件各発明により受けるべき利益の額は、本件発明1については、平成8年度分が●(省略)●円、平成9年度分が●(省略)●円の合計●(省略)●円であると認められ、他方、本件発明2については、当該利益を認めることができない」と述べている。 |