東京地裁(平成3年4月8日)“同音語選択装置事件被告は、本件発明1について、自らこれを実施するとともに、他社に実施許諾をしているところ、このような場合に、当該発明の自社実施について、特許権が存在することにより、その禁止権の効果として、実施許諾をしていない第三者に対して当該発明の実施を禁止したことに基づいて自社実施による売上高について超過利益を得ていたとみるべきかどうかについては、個々の事案に応じた判断が必要になる」、「被告は、@●(省略)●との間においては、いずれも本件発明1を対象特許に含むライセンス契約を締結し、所定の実施料の支払を受けていたこと・・・・、AE社ないしG社との間においては、いずれも本件発明1を対象特許に含む包括クロスライセンス契約を締結し、それぞれが保有する対象特許の実施を●(省略)●許諾し合っていたこと・・・・、BH社との間においては、本件発明1を対象特許に含む包括クロスライセンス契約を締結し、●(省略)●それぞれが保有する対象特許の実施を許諾し合っていたこと・・・・がそれぞれ認められ、また、C平成8年度及び平成9年度当時のワードプロセッサ専用機市場において●(省略)●及びE社ないしH社の製品が占める市場占有率の合計が約0%ないし5%、被告の製品が占める市場占有率が約5%であり、これら以外の他のメーカーの製品が占める市場占有率は約0%ないし5%であったこと・・・・が認められる。他方で、証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、平成8年度及び平成9年度当時には、被告及びA社ないしH社以外に、ワードプロセッサ専用機を製造販売する有力なメーカーとして、●(省略)●が存在していたこと、これらの●(省略)●・・・・が上記約0%ないし5%の市場占有率の大部分を占めていたものと推認される。そして、被告が●(省略)●との間で平成8年度及び平成9年度当時に本件特許1についてライセンス契約又は包括ライセンス契約を締結していたことを認めるに足りる証拠はないから、●(省略)●は被告が本件発明1の実施許諾をしていない第三者に該当するものと認められる。しかるところ、●(省略)●が平成8年度及び平成9年度当時に製造販売していたワードプロセッサにおいては、本件発明1が実施されていたものと認められること・・・・に照らすならば、●(省略)●は、本件特許権1の存在により、本件発明1を実施しなかったものということはできない。そうすると、被告においては、平成8年度及び平成9年度当時、本件発明1について、本件特許権1に基づく第三者に対する禁止権の効果として、自社実施による売上高について超過利益を得ていたものとは認められない。なお、自社が保有する特許権に係る発明を他社が実施していることが判明した場合に、当該特許権者が執る対応としては、相手方に対し自社の特許権を行使し、侵害行為の差止めを求めたり、あるいは、ライセンス交渉を行って何らかのライセンス契約の締結に至るということもあれば、事情によっては、あえて権利行使を行わないこともあり得るものと考えられる。また、いったんは特許権者が権利行使を行い、ライセンス契約が締結されたものの、その後の事情の変化によって、契約が更新されなかったり、解消されるということも考え得る事態といえる。結局のところ、当該特許権者が、現実にいかなる対応を執るのかは、当該製品やこれに関連する製品の市場において自社及び相手方が置かれた立場、自社と相手方との関係、当該製品やこれに関する製品に関して相手方が保有する他の特許の有無、内容やそれと自社製品との関係など、様々な要因によって異なり得るものといえる。このことは、本件発明1をめぐる被告と●(省略)●との関係にも当てはまるものとうかがわれる」、「以上によれば、・・・・本件発明1については、被告による自社実施の事実は認められるものの、それによって被告が法定通常実施権の行使により自己実施することができた分の利益を上回る利益(超過利益)を得ていたものとは認められないから、結局のところ、被告が本件各発明を自社実施したことによる独占の利益の存在は、これを認めることができない」と述べている。

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