東京地裁(平成3年4月8日)“同音語選択装置事件カナ文を漢字カナ混じり文に変換するに当たっては、変換のための辞書を整備した上で、形態素解析(対象言語の文法の知識や辞書を情報源として用い、自然言語で書かれた文を意味のある最小の単位である形態素の列に分割し、それぞれの品詞を判別すること)の考え方を用いるなどして、カナ文の中から漢字に変換すべき部分を正確に抽出し、同音異義語の適切な選択を行うことなどが必要となり、これらに係る技術が、カナ漢字変換に関する基礎的な技術をなすものということができる。これに対して、本件発明1は、・・・・カナ漢字変換システムにおける同音異義語の選択を効率化してオペレータの選択操作上の負担を軽減するもの、また、本件発明2は、・・・・変換精度の向上を図るものであって、いずれも上記のようなカナ漢字変換に関する基礎的な技術の存在を前提とし、これを実用化するに当たって生じる種々の技術的問題を解決することを目的とした発明ということができる。このような本件各発明の位置づけに鑑みれば、カナ漢字変換に関する基礎的な技術は、本件各発明が着想され、成立するに至る前提となるものであり、被告におけるこのような基礎的技術の蓄積は、本件各発明がされるについて、被告の貢献があったことを示す事情ということができる」、「被告におけるカナ漢字変換技術の研究開発が進められるに当たって、最初に完成した成果物はB1が作成したカナ漢字変換プログラムであり、このプログラムがその後の原告等による研究開発作業のベースとなり、本件各発明の着想やその具体化においても、その基礎となる技術をなすものであったことは明らかである。そして、このようなB1によるカナ漢字変換プログラムの作成が、被告がその負担においてB1を京都大学へ派遣して研究に従事させた際の研究成果に基づくものであることなどからすると、上記のような本件各発明の基礎となった技術の蓄積という点において、被告の貢献が認められる」、「被告におけるカナ漢字変換技術についての研究開発は、各時点における濃淡は認められるものの、研究の開始からJW−0の商品化に至るまで、終始、被告の人員、設備及び予算に基づいて進められてきたものであり、本件各発明の技術的思想の着想とその具体化も、このような体制に基づく研究開発の経過の中で行われたものであることからすると、研究開発体制の整備という点において、被告の貢献が大きいものであることは明らかといえる」、「本件各発明の特許提案書の中にある明細書の原案・・・・を原告が作成したこと以外に、発明者である原告が本件各発明の特許出願の手続やその準備行為に関与したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、本件各発明の特許出願等の権利化業務を主に担当したのが被告の特許部門の担当者であることは優にこれを推認することができ、この点は、被告の貢献として評価することができる」、「被告は、本件発明1について、A社ないしD社との間で各ライセンス契約を、E社ないしH社との間で各包括ライセンス契約を締結し、これによって、・・・・本件各発明により利益を得ているものであるところ、被告がこれらの契約をいかなる交渉経過を経て締結したものであるかについては、これを具体的に認め得る証拠がないため、詳細が不明といわざるを得ない。しかしながら、これらの契約の相手方が上記の8社に及ぶものであり、その各契約内容もそれぞれ異なる多様なものであることからすると、被告が各相手方とこれらの契約を締結するに当たっては、その各交渉に相応の時間と労力を要したであろうこと、また、その中で、被告の正当な利益を確保するためには相応のノウハウと交渉力を要したであろうことは、容易に推察し得るところといえるのであり、この点も、被告の貢献として評価することができる」、「被告がA社ないしH社との間の各ライセンス契約及び各包括クロスライセンス契約において本件発明1により利益を受けるについては、そもそも本件発明1の実施品であるカナ漢字変換技術を用いた日本語ワードプロセッサの事業が成功し、拡大していったことがその前提となっているものである。しかるところ、被告は、昭和4年2月に、我が国で初めてのカナ漢字変換技術を用いた日本語ワードプロセッサであるJW−0の販売を開始し、その後、競業各社が参入して日本語ワードプロセッサに係る事業が確立するに至る基礎を作ったものといえること、更に昭和0年以降になると、パーソナル型の機器が多数販売されるようになり、個人への普及も進んで、日本語ワードプロセッサの市場が拡大されていったところ、このようなパーソナル型の機器が普及するに当たっては、昭和0年に被告が販売を開始した『ルポ』シリーズの存在が寄与しているものといえること・・・・などの事情を考慮すれば、被告は、日本語ワードプロセッサ事業の成功及び拡大に相当程度の貢献をしたものであり、この点も、被告の貢献として評価することが可能である」、「以上で認定した事情のほか、本件各発明の内容及びその技術的意義、本件各発明の完成に至る経過及び『JW−0』の商品化の過程における原告の関与の状況、その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、本件各発明に関する被告の貢献度は、いずれも3%と認めるのが相当である」と述べている。

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