知財高裁(平成4年14日)“ソリッドゴルフボール事件特許法102条1項ただし書の適用により、権利者が販売することができないとされた部分につき、更に同条3項を適用することができるかにつき、以下検討する。特許法102条1項は、特許侵害に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに対し、同条3項は、当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから、それぞれが前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり、また、特許権者によって販売できないとされた分についてまで、実施料相当額を請求し得ると解すると、特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請求し得る逸失利益の範囲を超えて、損害の填補を受けることを容認することになるが、このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。以上からすれば、特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用は否定すべきであり、これと同旨の原判決に誤りはない」、一審原告は、重畳適用を肯定しなければ、特許法102条1項ただし書において『販売することができないとする事情』があるとして譲渡数量の全部を控除された場合、同条3項による損害賠償請求を認めない結果、権利者は全く損害賠償を得ることができず、最低限度の損害額を保証した同条3項の趣旨に反する旨主張する。しかし、特許侵害による損害は、基本的には侵害行為による権利者の逸失利益の填補であり、同条1項ないし3項は、そのために特許法が定めた計算方法である。したがって、特定の期間における侵害行為に対する損害は、原則として1個の算式で決められるべきであり、同条1項によって認められた損害は、逸失利益としての限界であり、それ以上、同条3項を更に適用して、特許権者等が販売することができない数量につき、実施料相当額を損害として認める理由はない。そして、同条3項の実施料相当額も、あくまで、取引による逸失利益が主張し得ない場合において、逸失利益につき、実施の対価という形で擬制した規定と解すべきである。その結果、同条1項による損害額算定において、侵害行為と因果関係のある販売減少数量が一部でも認められた場合には、その数量が特許権者の製品についての市場での評価を代弁するものであり、因果関係が認められなかった数量は、市場で評価されなかったものであって、権利者の逸失利益の全てがそこで評価され尽くしたとみるべきである。この点は『販売することができないとする事情』があるとして、譲渡数量の全部を控除された場合も同様である」、一審原告は、特許法102条1項と3項が前提を異にする損害算定方式であるからといって、同条1項ただし書で控除された数量部分につき同条3項に基づく実施料相当額の損害賠償請求を否定する根拠にはならない旨主張する。しかし、損害の上限は逸失利益であるところ、同条3項の実施料相当額は、あくまで、取引による逸失利益が主張し得ない場合において逸失利益につき実施の対価という形で擬制した規定と解すべきである。したがって、同条1項の適用において、権利者が販売し得なかった部分に関し、実施料相当額の請求を認めると、填補された損害額以上のものを侵害者に請求できることになって相当ではなく、一審原告の上記主張は採用することができない」、一審原告は、特許法102条1項ただし書の控除数量分につき同条3項の実施料相当額の損害賠償を認めても、それは販売数量の減少による逸失利益とは異なる観点からの損害を、重複のない範囲で正当に算定するものであって、特許権者が侵害行為に対する損害賠償として請求し得る逸失利益以上の損害の填補を受けることを認めるものではない旨主張する。しかし、・・・・同条3項の実施料相当額も、あくまで取引による逸失利益が主張し得ない場合に、実施の対価の形で逸失利益を擬制した規定にすぎず、同条1項による損害額算定において、侵害行為と因果関係のある販売減少数量が一部でも認められた場合には、その数量が特許権者の製品についての市場での評価を代弁するものであり、因果関係が認められなかった数量は、市場で評価されなかったものであって、権利者の逸失利益の全てがそこで評価され尽くしたとみるべきであるから、一審原告の上記主張は理由がない」と述べている。

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