知財高裁(平成24年6月6日)“スルファミド誘導体事件”は、「特許出願について拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、拒絶査定不服審判を請求することで特許査定又は拒絶査定の取消しを求めることができ(特許法121条1項、159条3項、51条、160条1項)、その際、請求の理由等を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(同法131条1項3号)ところ、審判長は、請求書がこの規定に違反しているとき(サイト注:本件は請求の理由に『詳細な理由は追って補充する』とのみ記載されていた)は、請求人に対し、相当の期間を指定して、請求書について補正をすべきことを命じなければならず(同法133条1項)、請求人が当該補正命令により指定した期間内に請求書の補正をしないときは、決定をもってその請求書を却下することができるとされている(同条3項)。そして、特許法は、審判長が上記決定をすべき時期については何ら規定していないところ、上記補正命令に基づく補正が上記相当の期間内にされない以上、あえて当該決定を遷延させることについて積極的な意義は見出し難い一方で、当該補正が当該相当の期間経過後にされた場合、当該補正を却下して請求書を却下する決定をしなければならない理由も見当たらない。したがって、審判長は、請求書を却下する決定の要件が充足したとしても、直ちに当該決定をしなければならないものではないというべきである。以上によれば、審判長は、特許法131条1項に違反する請求書について、同法133条1項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合、いかなる時期に同条3項に基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており、当該決定は、具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り、違法と評価されるというべきである」、「特許庁内部では、『審判事務機械処理便覧』という文書により、特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に先立って、請求人からの上申書等の有無や却下処分前通知書の発送を確認することとされているものの、当該文書は、・・・・あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず、特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではない」、「仮にそのような運用の積み重ねによって原告が本件請求書の取扱いについて何らかの期待を抱いたとしても、そのような期待は、特許法の規定を離れて特許庁による事実上の便益の供与の上に安住するものであって、法律上保護に値するものではない」、「本件決定に先立ってこれらの運用を経ていないとしても、そのことは、本件決定がその時期についての裁量権を逸脱又は濫用したとするに足りるものではない」と述べている。 |