東京地裁(平成4年81日)“ピペリジン誘導体事件特許法112条の2第1項(サイト注:平成3年の『正当な理由』への改正前のもの)の立法趣旨等に鑑み、同項所定の『その責めに帰することができない理由』とは、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である」、「本件不納付は、原告の使用する特許管理システム(サイト注:本件特許の存続期間中に旧システムから新システムへバージョンアップ)上、本件特許につき、第6年分特許料納付により、特許料を完納した旨のコードが設定され、次回納付期限日(第7年分特許料納付期限日)が設定されなかったことに起因するものと認められる」、「本件において、本件特許の第6年分特許料納付により、完納コードが『完納』に設定され、第7年分の特許料納付期限が設定されなかった原因を明確に特定するに足りる立証はなく、上記原因が特定されない以上、原告が、上記原因に関し、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしたこと及び上記原因が上記注意にもかかわらず避けることができないと認められる事由に当たることを認めるに足りる主張及び立証もないものといわざるを得ない。なお、上記原因として考えられる可能性の1つとして、本件移行作業(サイト注:旧システムから新システムへのデータの移行作業)が適切なものではなかった可能性が挙げられる・・・・ところ、・・・・本件移行作業は、原告が日立情報システムズに委託して行われたことが認められる。しかし、本件移行作業に問題があったとしても、上記の点が、受託者の判断に係るものではなく、受託者からの報告に基づき原告が指示した事項に起因するような場合には、上記の点は、委託者である原告自身の過失によるものとみるのが相当であり、原告が、通常の注意力を有する当事者として通常期待される注意を尽くしたものということはできないこととなる。また、上記問題点が、受託者の作業上の誤りなど、受託者の過失によるものとみるべきものであったとしても、原告は、上記移行作業を自ら行い又は第三者に委託するなどのいずれの形態を採用するか、または第三者に委託する場合にどのような者を選択するかについて、自己の判断に基づき自由に選択することができる状況の下で、自己の判断に基づき本件移行作業を第三者に委託することを選択したものである上、・・・・日立情報システムズは、原告に対し、作業の各段階において文書で作業内容を報告していたことが認められるのであるから、上記過失は、原告側で生じたものとみるべきであり、当該過失に起因する事情により追納期間を徒過した場合には、特許法112条の2第1項所定の『その責めに帰することができない理由』によるものとは認められないものというべきである」、「したがって、本件不納付に関し、原告に、特許法112条の2第1項所定の『その責めに帰することができない理由』があるとは認められない」と述べている。

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