東京地裁(平成4年98日)“LED照明装置事件特許権者が他社に実施許諾をせずに、職務発明の対象となる特許発明を自ら実施している場合における独占の利益は、他社に対して職務発明の実施を禁止できることにより、他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して、これを上回る売上高(超過売上げ)を得たことに基づく利益(超過利益)をいうものと解される。ここで超過売上げとは、仮に第三者に実施許諾された事態を想定した場合に使用者が得たであろう仮想の売上高(法定通常実施権に基づく売上げ)と現実に使用者が得た売上高とを比較して算出された差額に相当するものというべきであるが、具体的には、職務発明対象特許の価値、ライセンスポリシー、ライセンス契約の有無、市場占有率、市場における代替技術の存在等の諸般の事情を考慮して定められる独占的地位に起因する一定の割合(超過売上げの割合)を乗じて算出すべきである。そして、超過利益は、上記方法により算出された超過売上高に、仮想実施料率を乗じて算出するのが相当である」、「本件発明の実施品である被告製品は、本件発明を採用することによってLED照明装置であるにもかかわらず蛍光灯と同等の特性、照度分布を実現しているという有意な特性を有すること、しかし、蛍光灯と同等の特性、照度分布を実現しているLED照明装置は被告製品に限られず、競合他社の同種の製品が複数存在すること、それにもかかわらず、被告製品が上記のような売上高を上げているのは、被告製品が消費電力が少なく、かつ信頼性が高いとされるS製のLEDを使用している点が主要な要因であると認められること、以上の事実を総合すると、本件における超過売上げの割合は0パーセントであると認めるのが相当である。次に、甲8(発明協会研究センター編『実施料率[第5版)によれば、本件発明の属する技術分野である民生用電気機械・電球・照明器具製造技術分野における平成4年度から平成0年度における実施料率の平均値は、イニシャル・ペイメント条件無しで4.6%であり、過去に比べて僅かに上昇傾向にあることが認められる。そうすると、仮想実施料率はこれを5パーセントと認めるのが相当である」、「被告は、被告製品は、多額の販売費及び一般管理費をかけ、営業担当が多大な労力を費やすことでようやく一定の売上げを得たが、利益を生み出すには至らなかったと主張する。確かに、・・・・被告は、平成1年度の事業年度(平成1年6月1日から平成2年5月1日まで)において、売上高1億8527万7555円、売上原価1億3082万8996円、売上総利益5444万8559円に対し、販売費及び一般管理費が合計5703万9796円に達しており、結局、営業利益がなかったことが認められる。しかし、同販売費及び一般管理費の内訳(科目や金額)を具体的に検討すると、被告製品の売上げに応じて変動するいわゆる変動経費以外の経費が相当額含まれていると認められるから、1億5万8500円の売上高を上げている被告製品が、何ら利益を生み出しておらず本件発明の実施によって受けた利益と評価される額を零であるということはできない」と述べている。

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