東京地裁(平成5年0月0日)“ディスク機械のサーボ・パターンの書込み方法事件民法166条1項は『消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する』と規定し、消滅時効の起算点を定めるが、ここにいう『権利を行使することができる』とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解するのが相当である(最高裁昭和・・・5年7月5日大法廷判決・・・・参照。これを本件についてみるに、原告は、遅くとも昭和3年2月頃までに、日本IBMに対し、本件発明に係る特許を受ける権利を譲渡したが・・・・、その頃の日本IBMの発明報奨制度において、職務発明の相当対価につき具体的な支払時期を定めた規定は見当たらないから・・・・、本件発明に係る相当対価の支払債務は期限の定めのない債務であったと認めるのが相当である。そうすると、原告は、本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡時において、日本IBMに対し、本件発明に係る相当対価の支払を請求することにつき法律上の障害があったとは認められない。また、改正前特許法5条4項(サイト注:現7項)・・・・にいう『受けるべき利益』とは、特許を受ける権利の譲渡時における客観的な利益であり、使用者等が後に受けた利益ではないと解されるから、職務発明の相当対価は、その譲渡時における客観的な価格である・・・・。同様に、本件発明に係る相当対価も、特許を受ける権利の譲渡時における客観的な価格であり、その算定は譲渡時に可能であったから、本件発明に係る相当対価の支払請求は、その権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできたものである。したがって、本件発明に係る相当対価の支払請求権は、その特許を受ける権利の譲渡時から消滅時効が進行すると解するのが相当である」、「これに対し、原告は、特許貢献賞の規定によれば、特許貢献賞は年間のライセンス収入の実績をみた上で授与されるものであるから、その性質上、特許貢献賞に関する消滅時効の起算点は、特許貢献賞の対象となる年間の高額のライセンス収入が得られたことが判定できるような一定期間を経過したときに、支払時期が到来し、その時点を起算点と解するのが相当であるなどと主張する。しかしながら、原告の主張する特許貢献賞は、本件発明に係る特許を受ける権利が譲渡され・・・た後の平成8年に制定されたものであり、改訂後の規定や移行措置をみても・・・、それが本件発明についてまで適用されるのか否か明らかではない。仮に、これが本件発明についても適用されるものとしても、平成8年改訂のIBMの発明報奨制度をみると、特許貢献賞を含めて具体的な支払時期は定められていない・・・のであって、本件発明に係る相当対価の支払債務は期限の定めがない債務であることに変わりはない。原告の主張は、日本IBMにおける発明報奨制度における特許貢献賞についての算定方法から、改正前特許法5条3項(サイト注:現4項)に定める相当対価請求権の支払時期を導き、これを消滅時効の起算点とするものであると解される。しかし、発明報奨制度において支払時期についての明確な定めがないにもかかわらず、同制度における特定の報奨額の算定方法から相当対価の支払時期を導くことは、相当対価の支払を受けられる時期が制限されることにもつながるものであって、そのような解釈を認めるだけの合理的理由がない限り許されないというべきであり、本件においては、そのような合理的理由は認められない。上記・・・の相当対価請求権の法的性質に照らせば、原告の主張するような事情を法律上の障害とも、権利の性質上その権利行使が現実に期待できない事情ともみることはできない。よって、原告の主張は採用できない」と述べている。

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