東京地裁(平成5年2月3日)“安定材付きベタ基礎工法事件原告は、被告が第4期の内販において本件発明1を実施していないことを認めながら、被告が同時期に本件発明1に係るMS基礎の施工を中止したのは、原告からの職務発明対価請求によって争訟が顕在化した後であり、被告がこれに対抗するためであったから合理的理由がなく、このように合理性のない被告の行為に起因するMS基礎の売上減少を相当対価の算定に考慮すべきではないとして、平成3年7月に被告がMS基礎の設計図面を変更した後の第4期についても、本件発明1が実施されたものと仮定して、職務発明の相当対価を算定すべきであると主張する。しかし、・・・・被告がMS基礎について建築技術性能証明を取得するためのプロジェクトを立ち上げたのは、原告が被告に対して職務発明対価を請求した平成2年2月7日より2年以上前の平成0年0月であるから、建築技術性能証明の取得自体が、原告に対する職務発明対価の減額等を目的にされたものとは認められない。また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記建築技術性能証明の取得のためには、ベタ基礎の立ち上がり部の下部と安定材の係合及び安定材の断面形状が逆台形型であることはいずれも意味をなさなかったこと、性能証明取得の過程では、当時エス・バイ・エルに在籍していた原告がプロジェクト長としてそのプロジェクトに参加していたこと、原告がプロジェクト長を務めていた平成1年2月8日の時点で既に安定材の断面形状を逆台形型ではなく矩形型として載荷試験をすることが決められており、しかも、この形状変更を提案したのは、被告ではなく、当該評価証明を行う団体である一般財団法人日本建築総合試験所のE氏であったこと、被告が建築技術性能証明を取得した工法においては、安定材構築による地盤の支持能力の向上が認められたこと、以上の事実が認められる。そうすると、上記安定材の断面形状の変更は、被告が恣意的に行ったものではなく、むしろ建築技術性能証明書を取得するための合理的な選択であったということができる。そして、第3期におけるMS基礎が、土木工学的に地盤の許容応力度が向上していることを客観的に証明できなかったのに対して、被告が建築技術性能証明を取得したMS工法においては、安定材構築による地盤の支持能力の向上を唱えることができたことからすれば、被告がその営業戦略上、建築技術性能証明を取得したMS工法を宣伝し、そこで、従来のMS基礎に係る工法を用いなかったとしても、そのことが特段不合理であるということはできない」、「上記のとおり、平成3年7月1日以降、被告が設計変更に基づいて、内販における本件発明1の実施を終了したことが不合理といえない以上、同日以降の被告の内販の売上高を被告の独占の利益に算入することは相当でない。したがって、原告の上記主張は採用することができない」と述べている。

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