東京地裁(平成25年2月28日)“医薬事件”は、「本件各明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、2型糖尿病に対しては、個々の患者のそのときの症状に最も適した薬剤を選択する必要があるが、個々の薬剤の単独使用においては、症状により十分な効果が得られなかったり、投与量の増大や長期化により副作用が発現する等の問題があり、臨床の場でその選択が困難であったこと、本件各発明は、これを解決するために、インスリン感受性増強剤であり副作用のほとんどないピオグリタゾンと消化酵素を阻害して澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα−グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース、ボグリボース、ミグリトール)、嫌気性解糖促進作用等を有するビグアナイド剤(フェンホルミン、メトホルミン、ブホルミン)、膵β細胞からのインスリン分泌を促進するSU剤であるグリメピリドのいずれかとを組み合わせ、これにより、薬物の長期投与においても副作用が少なく、かつ多くの2型糖尿病患者に効果的な糖尿病の予防や治療を可能にしたことが認められる。これによると、本件各発明が、個々の薬剤の単独使用における従来技術の問題点を解決するための方法として新たに開示したのは、ピオグリタゾンと本件各併用薬との特定の組合せであると認められる(ピオグリタゾンや本件各併用薬は、それ自体、本件各発明の国内優先権主張日より前から既に存在して2型糖尿病に用いられていたのであり、本件各発明がピオグリタゾンや本件各併用薬自体の構成や成分等を新たに開示したということができないのは当然である。)。そうすると、ピオグリタゾン製剤である被告ら各製剤は、それ自体では、従来技術の問題点を解決するための方法として、本件各発明が新たに開示する、従来技術に見られない特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものに当たるということはできないから、本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められない」、「原告は、ピオグリタゾンが公知であったとしても、これが『その発明による課題の解決に不可欠なもの』に該当することを否定すべき理由はないし、ピオグリタゾンは、これを用いることによって本件各発明の課題を解決することができる重要な成分であり、ピオグリタゾンがなければ本件各併用薬との組合せという従来技術には見られない特徴的技術手段をもたらすことはできず、これを他の有効成分に置き換えることもできないから、当該手段を特徴付けている特有の成分に当たると主張する。しかしながら、本件各発明は、ピオグリタゾンと本件各併用薬という、いずれも既存の物質を組み合わせた新たな糖尿病予防・治療薬の発明であり、このような既存の部材の新たな組合せに係る発明において、当該発明に係る組合せではなく、単剤としてや、既存の組合せに用いる場合にまで、既存の部材が『その発明による課題の解決に不可欠なもの』に該当すると解するとすれば、当該発明に係る特許権の及ぶ範囲を不当に拡張する結果をもたらすとの非難を免れない。このような組合せに係る特許製品の発明においては、既存の部材自体は、その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものに過ぎず、既存の部材が当該発明のためのものとして製造販売等がされているなど、特段の事情がない限り、既存の部材は、『その発明による課題の解決に不可欠なもの』に該当しないと解するのが相当である」と述べている。 |