東京地裁(平成5年68日)“屋根下地材事件「特許法10条1項本文は、民法70条に基づき逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、その趣旨は、特許権はその技術を独占的に実施する権利であり、その技術を使った製品は特許権者等の権利者しか販売することができず、したがって、特許権者等の実施の能力の限度では侵害者の譲渡数量と特許権者等の喪失した販売数量が一致するとみることができるから、侵害者の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を実施の能力に応じた額の限度において損害額と推定した規定と解すべきである。そして、同項ただし書は、実際の侵害事件では、様々な要因により侵害品の販売数量と特許権者等が喪失した販売数量が一致しない事情が存在する場合があることから、侵害者がそのような事情を証明した場合には、その限度で損害額を減額することができることを規定したものと解される。したがって『販売することができないとする事情』としては、市場機会の喪失とさえも評価できないような事情に限らず、特許権者等が販売することができたものに固有の事情をはじめ、市場における当該製品の競合品や代替品の存在、侵害者自身の営業努力、ブランド及び販売力、需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の特徴、侵害品の価格などの事情をも考慮することができると解するのが相当である」と述べている。

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