知財高裁(平成6年0月9日)“樹脂封止金型事件製造コストの低下した製品に他社を排除する効果があることは明らかである。しかしながら、@・・・・昭和4年ころから、ポットを複数個にして樹脂の移送距離を短くしたマルチポット方式の半導体樹脂封止金型が使用され始め、この方法が歩留りを改善するものであったこと、A・・・・昭和8年ころには、従来技術として、被樹脂封止装置を収容する複数個のキャビティと、該キャビティに樹脂を導入するランナ及びポット(1個)とを有する樹脂封止金型において、前記キャビティの側面のみを鏡面加工し、その底面及び前記ランナにおける前記樹脂に接する壁面をEDM法で形成した(壁面が梨地状になる)樹脂封止金型が用いられていたことが認められ、TOWAも、平成5年ころから、一審被告以外の顧客に対しても、ランナ等における樹脂に接する壁面をEDM法で形成したマルチポット方式の半導体樹脂封止金型を製作するようになっていたことが認められる。したがって、本件発明の実施は、製造コスト低減に関して、他の技術に比して、高い優位性や強い独占の効果を持つものであったとはいい難い。もっとも、・・・・半導体装置製造に当たって表面実装方式が広く用いられるようになったことや、半導体装置の小型化に伴って樹脂内の気泡等に由来するボイドが不良品の主な原因を占めるようになったこと、また、金型壁面の加工技術の向上などから、本件発明が改めて注目され、平成4年ころから、ランナにおける樹脂に接する壁面を積極的に粗面状に加工したマルチポット方式の半導体樹脂封止金型として、本件発明が、他のボイド等の抑制技術と共に併用されるようになったことからみて、本件発明は、相応の技術的効果を有するものとして着目されていたと認められる。また、平成5年ころまでは、むしろ、ランナを鏡面加工することが主流であり・・・・、本件発明が明らかに無効なものであると当業者に認識されていた形跡は認められず、本件発明には一応の他社に対する抑制的効果があったと推測される。以上の点を総合すると、一審被告及び関連会社(当サイト注:一審被告と同視される会社)が製造した半導体装置は、他の歩留り向上のための技術や、他のボイド等の抑制技術と併用された本件発明の効果により、コスト削減に有意な影響を与え、これにより他社を排除するという若干の独占的効果を有していたといえ、一審被告が本件発明を自己実施することによって得た半導体装置の売上高に占める超過売上高の割合は、0%であると認めるのが相当である」、「本件に現れた諸事情を総合的に考慮すると、本件発明の想定実施料率は、2%であると認めるのが相当である」と述べている。

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