知財高裁(平成26年12月17日)“金属製棚事件”は、「特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する特許法102条2項の推定を覆滅できるか否かは、侵害行為によって生じた特許権者等の損害を適正に回復するとの観点から、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか、市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等といった営業的要因や、侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して、判断すべきものである」、「@寄与度 まず、本件発明は、金属製ワゴン全体に関する発明であり、発明の効果をもたらす美観と傾き防止機能は、金属製ワゴンの支柱に合うように形成された棚板のかど部の形状によってもたらされるものであるが、被控訴人製品が製品全体に関する本件発明の実施品であることに変わりはなく、被控訴人製品の特徴的機能に本件発明が大きく寄与しているものと認められる。被控訴人製品が、被控訴人コージ産業の保有する特許権(特許第4910097号)の実施品であるとしても、上記特許権のうち、外壁と内壁の間の中空部分の構造強化に資する程度は不明であって、本件発明の構造である、内側に折り曲げたことによる外壁と内壁の二重構造とその際の側壁の切欠によって延設された内接片と支柱の当接、支柱と側壁の側面の当接が、構造強化に大きく寄与していると考えられる。しかも、上記特許権の特徴である外壁と内壁の間の中空部や内壁の自由端部の構造は、外観上は明らかではなく、外観の写真しか掲載しないカタログ販売において、その点が消費者の購入意欲に大きく影響するとは考え難い・・・・。また、本件発明の効果である美観や傾き防止機能を有する製品は、従前からあったとしても・・・・、これまで公に知られていた金属製ワゴンは、両方の機能を兼ね備えたものとは必ずしも認められないから、両方を兼ね備えた被控訴人製品の購買への訴求力を否定するものではなく、実際、被控訴人製品が、販売のためのカタログにおいて、『美しい美観と強度に優れ、横ユレがありません。』と宣伝され、上記2つの機能を広告文言に使用していたことからも・・・・、本件発明が被控訴人製品において発揮した上記2つの効果は、需要者に対する訴求力を持った機能であると認められる。確かに、控訴人の販売した金属製ワゴンのうち、本件発明の実施品の割合は、平成23年度が571品番中16品番、平成24年度が1032品番中16品番、平成25年度が894番中18品番と少ないが・・・・、そうであるとしても、およそ金属製ワゴンであれば代替品や競合品となり得るということはできないし、同一構成で同様の作用効果を有する被控訴人製品が販売されたことによる影響も考えられるのであって、本件発明の需要者に対する訴求力のなさを直ちに意味するものではない」、「A推定覆滅事由 ・・・・平成23年ころの時点で、控訴人は、従業員数350名、全国に40の営業所を展開する会社であると認められ、被控訴人トラスコ中山よりも会社の規模は小さいが、十分な生産能力や販売能力を有していると推認され、事業規模による推定覆滅は認められない。また、被控訴人製品が、被控訴人トラスコ中山が従前から販売していたワゴンのモデルチェンジをした製品であるとしても・・・・、販売された被控訴人製品は、被控訴人トラスコ中山の従前からの顧客が、オレンジブックを配布されて、製品の内容等を検討することなく、単純に従前の旧モデルを買い換えたと認めるに足りる証拠はない。もっとも、被控訴人製品がカタログ販売されていた事情に鑑みると、被控訴人製品の購入動機が、本件発明に関わる美観と傾き防止性能のみにあるとは考えられないし、金属製ワゴンの市場では、多数のメーカーが製品を販売している以上・・・・、被控訴人トラスコ中山が販売した被控訴人製品のすべてについて、控訴人が控訴人製品を販売できたと解することは困難である(ただし、前述したとおり、被控訴人製品が他の金属製ワゴンにはない機能を有している事情に鑑みれば、市場で販売された他の金属製ワゴンが直ちに競合品や代替品に該当するということはできず、大幅な推定覆滅は認められない。)」、「B小括 以上の事情を総合すると、覆滅割合としては、20%が相当である」と述べている。 |