知財高裁(平成6年6日)“全方向性傾斜および振動センサ事件原告は、引用例1には『構造も極めて簡単かつ強固』にするという課題があり『接着剤や締結部材等を要することなく弾性的に密嵌合した状態で確実かつ強固に係止される』という作用効果を奏するためには、環状後端面3Dが内側環状面7Cに係合されることが必要であるから、引用発明は、環状後端面3Dが形成されること、すなわち、本願発明でいえば、第1の直径が第2の直径よりも小さい構成でなければならないし、引用例1には、直径の大きさを上記構成と逆にする設計思想は開示も示唆もない、また、引用例2や引用例3の構成も図面から特定されているだけで、具体的な設計思想はないから、引用発明と、引用例2又は引用例3の記載事項を組み合わせる動機付けはないと主張する。しかしながら、引用例1に『組立作業の大部分を占める電極部材の取り付けが極めて容易であるばかりでなく、構造も極めて簡単かつ強固で・・・・』・・・・と記載されているように、環状後端面3Dを備えた電極素材は、強固な固着の作用をもたらすと同時に電極部材の取付けの容易性を導き出すための構成でもある。したがって、引用発明は、部品を減らすこと、固着を強固にすることという課題のみならず、電極部材の取付けを容易なものとするという課題をも解決したものといえ、引用発明において電極部材の取付けやすさという課題が示唆されている以上、同じ課題を解決するための手段や技術と組み合わせることについて示唆があるといえる。そして、当業者は、引用発明に複数の課題が示されているような場合には、その優劣関係や関連性の程度、一方を優先した場合の他方への影響の度合いや得失などを考慮した上で、特定の課題の解決をいったん留保して異なる課題の解法の観点から、発明が採用している構成の一部を変更することも適宜試みるものというべきである。これを本件に当てはめると、筒状体の両端部に嵌める電極部材の形状として、第1の直径と第2の直径の大小関係をどのようにするかという点についても、固着を強固にするという課題を留保して電極部材の取付けを容易にするという課題の解決のために、当業者が適宜決定できる設計事項を採用して、構成の変更を行うことについての示唆があるというべきである。そして、引用例2又は引用例3における電極部材の構成は、いずれも、第1の直径が第2の直径よりも大きい構成であるところ、かかる構成は、筒状の物体の端の孔を部材でふさぐ場合において、センサという技術分野に限られずに用いられる、一般的なありふれた形状であって、いわば周知技術といえ・・・・、しかも、その構造は筒状体に取り付けやすい形状であることは明らかであるから、これを取付けやすさを課題の1つとした引用発明に組み合わせることには動機付けがある。したがって『筒状体B』に嵌まる部分の第2の直径を変更することなく『筒状体B』に嵌まらない部分の第1の直径を『筒状体B』に嵌まる部分の第2の直径よりも大きく構成することで、本願発明と引用発明の相違点に係る構成(第2の直径を第1の直径よりも小さくする構成)とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである」と述べている。

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