東京地裁(平成26年3月26日)“電池式警報器事件”は、「住宅用火災警報器市場には、原告及び被告以外に、多数の製造業者が存在し、被告製品と競合する製品である住宅用火災警報器を販売していたものであるところ、とりわけ、住宅用火災警報器市場シェア1位のパナソニック、同3位の能美防災ら・・・・は、平成19年ないし平成24年において、音声警報機能付き住宅用火災警報器を多数機種販売していたものであるから・・・・、仮に被告製品が存在しなかった場合には、原告のみならず、これらの業者においても、相当数の競合品を販売することができたものと考えられるところである。また、被告は、住宅用火災警報器市場の市場占有率においては約1.1%又はそれ以下の程度を占めるにすぎないものの、その販売数量の大半はガス業界向けに販売されたものであり・・・・、被告が、被告がガス漏れ警報器市場において高いシェアを有していること・・・・にも照らし、ガス業界向けを中心として被告製品を販売することができたのは、被告がガス業界において高い営業力を有していたことによることがうかがわれるところである。他方、原告は、ガス漏れ警報器市場においては見るべきシェアを有するものではなく・・・・、また、ガス業界に対する住宅用火災警報器の販売数量も多いものではないことがうかがわれるのであって・・・・、同業界において高い営業力を有していたものとは認め難い。これに加えて、被告製品の中には、原告製品が備えていない機能を有するものもみられるのであって・・・・、被告製品が存在しなかった場合に、これらの製品の需要が、すべて、当該機能を備えない製品であり、かつ、ガス業界における営業力も高いものではなかった原告の販売する原告製品に向き得るものであったとも認め難い」、「他方、本件発明は、その構成により、利用者が早期かつ確実に電池電圧低下を認識し、これを放置することなく早期の電池交換が促されることで、無監視状態で警報器が放置される事態を回避することが可能になるという作用効果を有するものであるところ・・・・、被告製品のカタログ等に本件発明に係る構成が記載されていること・・・・に照らせば、本件発明の作用効果が購入者らによる製品購入(又は事業者による製品採用)の動機付けの1つとなっていることがうかがわれるものというべきである。ただし、火災警報器における基本的性能は、監視領域における火災等の異常を確実に検知し報知する点にあると考えられるのであって、電池電圧低下の検知及び報知は、異常を確実に検知し報知するための警報器の作動を確保するための機能に関するものではあるものの、複数あり得る火災警報器の故障又は異常状態の一類型に対応するものにすぎないことや電池電圧の低下の検知及び報知については音声のみによる方法等の本件発明を実施しない他の方法もあり得ることを考慮すれば、本件発明に係る構成に基づく作用効果が、購入の決定的な動機付けとなり、又は製品を選択するに当たり大きな影響力をもつものとまでは考え難い。以上の諸事情については、被告製品の販売数量のうち、本件発明の作用効果を考慮してもなお他社の競合品によって代替されたと考えられる割合及び被告自身の営業力や本件発明の実施部分以外の被告製品の特性等により販売することができたと考えられる割合について、これらを総合して、原告が原告製品を『販売することができないとする事情』があると解するのが相当である。そして、上記諸事情に照らし、上記数量は7割とみるのが相当である」と述べている。 |