東京地裁(平成6年8日)“建物の断熱・防音工法事件発明者とは、特許請求の範囲に記載された発明について、その具体的な技術手段を完成させた者、すなわち、ある技術手段を着想し、それを具体化して完成させるための過程において発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者をいうと解すべきところ、この発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいうと解するのが相当である」、本件特許発明における『外壁内に、柱又は間柱を介して、外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に、内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを配置することにより、前記柱又は間柱、前記エアシート、及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する』構成(外壁内空間形成工程)は、・・・・引用文献1ないし3の何れにも記載されていないものである。そうすると、上記外壁内空間形成工程は、本件特許発明の特徴的部分の1つであると認められる。また、・・・・外壁内空間形成工程において床上から2mの内張りシートを配置した上で、第1の吹き込み穴形成工程及び第2の吹き込み穴形成工程において、それぞれ床上から0cm、150cmの位置に吹き込み穴を形成し、3段階で吹き込みを行う点(第1の吹き込み穴形成工程ないし第3の吹込み工程)についても、セルロースファイバーの吹き込み位置を2箇所としてこれを3段階に分けて吹き込むとの技術思想の基で、公知技術に該当するものとは認められない部分であり、結露防止及び施工を正確かつ容易にするという本件特許発明の課題解決手段を基礎付ける部分であるということができるから、この部分も本件特許発明の特徴的部分であるということができる」、そうすると、本件特許発明の特徴的部分は、外壁内空間形成工程と、第1の吹き込み穴形成工程ないし第3の吹込み工程の2つにあると解される」、「外壁内空間形成工程については、・・・・原告において、B工務店に入社する以前から協力関係にあった透湿性シートのメーカーであるセーレンと交渉し、セルロースファイバー断熱工法に用いる通気性を有する専用の内張りシートである『セルローズ専用内張りシート』を製造させるなどし、これが本件特許発明においてセルロースファイバーを吹き込む外壁内空間に配置される内張シートとなっていること、その一方で、被告BないしB工務店において、外壁内空間形成工程についての積極的な貢献等が認め難いこと等からすると、・・・・外壁内空間形成工程が公知技術とはいえないとすることを前提とすれば、原告は、外壁内空間形成行程の完成に創作的に寄与していることは明らかであるから、少なくとも外壁内空間形成工程についての発明者の1人であると認められる。一方、上記第2の特徴的部分は、床上から2mの内張りシートを配置した上で、第1の吹き込み穴形成工程及び第2の吹き込み穴形成工程において、それぞれ床上から0c150cの位置に吹き込み穴を形成し、3段階で吹き込みを行うことを内容とするものである。そして、その技術的思想の基は、セルロースファイバーの吹き込み位置を2箇所とし、セルロースファイバーを3分の1ずつ3段階に分けて吹き込むものとする点にあるところ、原告は、天井の高さが2mの住宅はほとんど存在しないことを前提とした上で・・・・、2mよりも壁が高い場合には、更に3箇所目の穴を第2の吹き込み穴から0c上に開け、この穴を開ける工程をランダムに繰り返す、としている・・・・。しかし、このセルロースファイバーの吹き込み穴の形成位置に関する原告の認識は、本件明細書の記載から把握される技術的思想である、セルロースファイバーを均等な密度になるようにするために3つの段階に分けて吹き込むものとすることと異なることは明らかである。そうすると、本件特許発明の第2の特徴的部分については、原告が発明者の1人であるとまではいえないというべ きである」と述べている。

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