東京地裁(平成26年4月30日)“フラッシュX線照射装置事件”は、「原告は、特許法184条の4第1項により国内書面提出期間の起算日となるべき優先日とは実体法上有効な優先権主張を伴う優先日をいい、優先権主張が実体法上無効であれば、国内書面提出期間の起算日は現実の出願日から起算されるべきであると主張し、その根拠として、パリ条約4条Hを引用する特許協力条約8条(2)(a)の規定を挙げる。しかし、特許法184条の4第1項、特許協力条約2条(xi)にいう『優先日』とは、期間の計算のためにのみ定義されたものであり、国際出願が特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合には、その優先権の主張の基礎となる出願の日をいい、当該優先権の主張が有効であるか否かといった、指定官庁における国際出願の実体審査の結果によって左右される性質のものではないと解するのが相当である。このことは、特許協力条約23条(1)が、指定官庁が同条約22条に規定する国際出願の翻訳文提出期間の満了前に当該国際出願について実体審査を行うことを禁じていることや、特許法184条の17が、外国語特許出願については、同法184条の4第1項の規定による翻訳文提出手続をした後でなければ、出願審査の請求(同法48条の3)をすることができないと規定し、特許庁における実体審査を開始する条件として、同法所定の期間内に翻訳文提出手続を完了させることを要求していることからも明らかである。特許協力条約8条(2)(a)の規定は、期間の計算に影響を及ぼすような規定とは解されない」、「以上によれば、原告は、平成21年5月18日、米国特許商標庁に対し、本件優先権主張を伴う本件国際出願をしていたのであるから、本件国際出願は『特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合』に該当し、その優先日は、本件優先権主張の基礎となる本件仮出願の出願日である平成20年5月16日となる(特許協力条約2条(xi)(a))。本件国際出願は、指定国に日本国を含むものであったから、日本国において、特許法184条の3第1項の規定により、本件国際出願の日にされた外国語による特許出願とみなされ(本件国際特許出願)、その国内書面提出期間は、優先日である平成20年5月16日から、その2年6か月後である平成22年11月16日までであった(特許法184条の4第1項)。原告は、上記国内書面提出期間内に翻訳文を提出しなかったのであるから、本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法184条の4第3項)」、「そうすると、原告が平成23年10月25日に提出した本件国内書面、平成23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は、既に取り下げられたものとみなされ、我が国の特許庁に係属していない外国語特許出願について提出された不適法なものであるから、特許庁長官がそれらを却下した本件各却下処分はいずれも適法である」と述べている。 |