知財高裁(平成26年7月16日)“波長可変レーザーにおける波長選択可能なレーザー発振装置事件”は、「控訴人は、本件特許事務所においては、権利継続指示の回答情報のデータ入力により納付手続の当日に出力される送付状及び請求書等と手続原因書である年金納付回答書との事務担当者による突合せ作業等の幾重ものチェック体制が設けられているが、控訴人が本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったのは、本件納付指示書を受領した平成23年3月17日が折しも東日本大震災の6日後(4営業日後)であり、大震災の揺れ自体が引き起こした混乱に加え、直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ、水道水の放射能汚染、計画停電、交通機関の麻痺等、尋常ではない物理的・心理的執務環境下にあったため、通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったことに原因があったのであるから、たとえ改正前特許法112条の2第1項所定の『その責めに帰することができない理由』(サイト注:平成23年に『正当な理由』に改正された)の意義を、『通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合』と解釈するとしても、本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて、控訴人に、改正前特許法112条の2第1項所定の『その責めに帰することができない理由』があったことは明らかである旨主張する。しかし、・・・・本件各特許権の第9年分の特許料等が不納付となったのは、本件特許事務所において、本件各特許権の特許料の納付期限のデータ入力が適切でなかったことに加え、本件納付指示書自体が他の書類と紛れてしまって適切な管理がされなかったという、本件特許事務所における手続上の単純な人的な過誤によるものといわざるを得ない。そして、控訴人の上記主張に係る大震災の揺れ自体が引き起こした混乱、直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ、水道水の放射能汚染、計画停電、交通機関の麻痺等による尋常ではない物理的・心理的執務環境というものについては、これら事象が控訴人の本件納付指示書に基づく本件各特許権の特許料納付の指示に対する応答処理において、具体的にどのような物理的又は心理的な支障ないし影響があったがために、上記の本件特許事務所における手続上の人的な過誤が生じざるを得なかったのかについて、控訴人からは何ら具体的な主張立証はない。すなわち、本件納付指示書と特許料領収書の送付状及び納付報告を兼ねた請求書又は特許料納付リストとのデータ入力担当者や上司の職員による突合せ作業がされなかった経緯・理由等、控訴人の主張によれば、通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったとする本件特許事務所の本件納付手続の事務処理の具体的な状況や、これが東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故等に起因する具体的にいかなる物理的又は心理的な支障ないし影響によるものかが何ら明らかにされていない。したがって、控訴人からは、本件各特許権の特許料等の納付ができなかったことが、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由によるものであることを基礎付ける具体的事実についての主張立証がないといわざるを得ない。かえって控訴人の主張によれば、特許料等納付手続がされていない場合には、依頼人に対して、納付手続当日に出力される特許料領収書の送付状及び請求書等が送付されないことにより各依頼人が特許料納付の有無を確認できるシステムであったというのであるから、本件においては、依頼人である控訴人が、本件特許事務所から特許料領収書の送付状及び請求書等が送付されないことについて、本件各特許権の特許料が納付されているか否かを確認することを怠ったという控訴人本人の落ち度も認められるところである。そうすると、控訴人の主張立証に係る前記事情のみでは、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により本件各特許権の特許料等を追納期間内に納付できなかったものと認めることはできず、控訴人の上記主張は採用することができない」と述べている。 |