知財高裁(平成26年9月17日)“共焦点分光分析事件”は、「特許権侵害訴訟において、被告による抗弁として特許法104条の3に基づく権利行使の制限が主張され、その無効理由が認められるような場合であっても、訂正請求等により当該無効理由が回避できることが確実に予想されるようなときには、『特許無効審判により無効とされるべきものと認められる』とはいえないから、当該無効の抗弁の成立は否定されるべきものである。そして、無効理由の回避が確実に予測されるためには、その前提として、当事者間において訴訟上の攻撃防御の対象となる訂正後の特許請求の範囲の記載が一義的に明確になることが重要であるから、訂正の再抗弁の主張に際しても、原則として、実際に適法な訂正請求等を行っていることが必要と解される。仮に、訂正の抗弁を提出するに当たって訂正審判等を行うことを不要とすれば、以下のような弊害が生じることが予想される。すなわち、@当該訂正が当該訴訟限りの相対的・個別的なものとなり、訴訟の被告ごとに又は被疑侵害品等ごとに訂正内容を変えることも可能となりかねず、法的関係を複雑化させ、当事者の予測可能性も害する。A訂正審判等が行われずに無効の抗弁に対する再抗弁の成立を認めた場合には、訴訟上主張された訂正内容が将来的に実際になされる制度的保障がないことから、対世的には従前の訂正前の特許請求の範囲の記載のままの特許権が存在することになり、特許権者は、一方では無効事由を有する部分を除外したことによる訴訟上の利益を得ながら、他方では当該無効事由を有する部分を特許請求の範囲内のものとして権利行使が可能な状態が存続する。したがって、訂正の再抗弁の主張に際しては、実際に適法な訂正請求等を行っていることが訴訟上必要であり、訂正請求等が可能であるにもかかわらず、これを実施しない当事者による訂正の再抗弁の主張は、許されないものといわなければならない」、「ただし、特許権者が訂正請求等を行おうとしても、それが法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察して、訂正請求等の要否を決すべきである」、「現時点において、知的財産高等裁判所に・・・・審決取消訴訟(サイト注:下記の無効審判においてされた有効審決に対するもの)が係属中である以上、特許権者である控訴人レニショウは、訂正審判請求及び訂正請求をすることはできない(特許法126条2項。同法134条の2第1項参照。)。しかしながら、控訴人らが、当審において新たな訂正の再抗弁を行って無効理由を解消しようとする、乙16発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効理由は、既に原審係属中の平成23年12月22日に行われたものであり、その後、控訴人レニショウは、平成24年7月3日に本件訂正審判請求を行ってその認容審決を受けている。また、被控訴人が平成24年11月5日に乙16発明に基づく進歩性欠如を無効理由とする無効審判請求を行っていることから、控訴人レニショウは、その審判手続内で訂正請求を行うことが可能であった。さらに、新たな訂正の再抗弁の訂正内容を検討すると、本件発明である共焦点分光分析装置として通常有する機能の一部を更に具体的に記載したものであって、控訴審に至るまで当該訂正をすることが困難であったような事情はうかがわれない。すなわち、控訴人レニショウは、乙16発明に基づく無効理由に対抗する訂正の再抗弁を主張するに際し、これに対応した訂正請求又は訂正審判請求を行うことが可能であったにもかかわらず、この機会を自ら利用せず、控訴審において新たな訂正の再抗弁を主張するに至ったものと認められる。そうすると、控訴人レニショウが現時点において訂正審判請求及び訂正請求をすることができないとしても、これは自らの責任に基づくものといわざるを得ず、訂正の再抗弁を主張するに際し、適法な訂正請求等を行っているという要件を不要とすべき特段の事情は認められない」と述べている。 |