知財高裁(平成7年18日)“発泡された熱可塑性プラスチックの製造事件「第1次取消判決は、要するに、第1次審決が、甲1文献に示されているとする甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは、当業者が予測できるとはいえないと判断したのに対し、甲1文献に、HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載があること、HCFC−141bを熱的性能、防火性能を理由に依然として含ませるべきとの見解は示されていないことを理由に、甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは当業者が予測できないとの第1次審決の判断は合理的理由に基づくものではなく、誤りであるとしたものであり、かかる認定判断部分が、同判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を成すものであるということができる。よって、この認定判断部分が、第1次取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断に当たり、審判官は、再度の審判手続において、この取消判決の拘束力の及ぶ認定判断に抵触する認定判断をすることが許されないというべきである」、「これを踏まえて本件審決について検討すると、同審決は、甲1発明として、第1次審決が甲1混合気体の認定に用いたのと同じ甲1文献の表6から、HCFC−141b、HFC−245fa及びHFC−365mfcを含む点で甲1混合気体と共通し、これと実質的に同一というべき混合物ないし組成物を認定するとともに、これに『HFC−245fa及びHFC−365mfcのHCFC−141bに対する放散を比較調査するために用いられる』との事項を付け加え、かかる放散比較調査の目的に照らすと、上記混合物からHCFC−141bを除去すると、もはや放散比較調査ができなくなるとして、このような甲1発明からHCFC−141bを除去することは当事者に想到容易であるとはいえず、阻害事由があると判断したということができる。しかるに、第1次取消判決の認定判断は、第1次審決が特にその使用目的を限定することなく甲1文献に開示されているとした甲1混合気体について、これが放散比較調査に用いられた旨の甲1文献の記載内容を踏まえた上で、同混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは当業者が予測できるとはいえないとの第1次審決の判断が誤りであるというものである。なお、第1次審決は、甲1混合気体の使用目的については特に認定していないものの、甲1文献の記載内容に照らして、これが放散比較調査に用いるためのものであることは明らかであり、同審決が、かかる使用目的を甲1混合気体の使用目的から積極的に排斥する趣旨であったとは認め難い。そうすると、第1次審決取消後の新たな審判手続において、第1次取消判決が引用したのとほぼ同じ甲1文献の記載内容から、甲1発明として、HCFC−141b、HFC−245fa及びHFC−365mfcという3つの組成物を含む点で甲1混合気体と実質的に同一の混合物を認定しただけでなく、第1次審決や第1次取消判決の認定と異なり、その使用目的を新たに認定し、この使用目的に照らして、同混合物からHCFC−141bを除去することに当業者が容易に想到し得ないと判断することは、第1次取消判決の上記認定判断に抵触するものというべきである。よって、本件審決には、第1次取消判決の拘束力に抵触する認定判断を行った誤りがあり、この誤りは本件審決の結論に影響するものであるから、本件審決は取消しを免れないといわざるを得ない」と述べている。

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