最高裁(平成7年)“血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト事件特許権の存続期間の延長登録の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである。法7条の3(サイト注:現7条の7)第1項1号の文言上も、延長登録出願について、特許発明の実施に政令処分を受けることが必要であったとは認められないことがその拒絶の査定をすべき要件として明記されている。これらによれば、医薬品の製造販売につき先行処分と出願理由処分(サイト注:後行処分)がされている場合については、先行処分と出願理由処分とを比較した結果、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含すると認められるときには、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないこととなるというべきである。そして、このように、出願理由処分を受けることが特許発明の実施に必要であったか否かは、飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して判断すべきであり、特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきものではない。ところで、医薬品医療機器等法(サイト注:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規定に基づく医薬品の製造販売の承認を受けることによって可能となるのは、その審査事項である医薬品の『名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項(医薬品医療機器等法4条2項3号柱書き)の全てについて承認ごとに特定される医薬品の製造販売であると解される。もっとも、前記のとおりの特許権の存続期間の延長登録の制度目的からすると、延長登録出願に係る特許の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとならない審査事項についてまで両処分を比較することは、当該医薬品についての特許発明の実施を妨げるとはいい難いような審査事項についてまで両処分を比較して、特許権の存続期間の延長登録を認めることとなりかねず、相当とはいえない。そうすると、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するか否かは、先行処分と出願理由処分の上記審査事項の全てを形式的に比較することによってではなく、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について、両処分を比較して判断すべきである。以上によれば、出願理由処分と先行処分がされている場合において、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である」、「これを本件についてみると、本件特許権の特許発明は、血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを治療有効量含有する、がんを治療するための組成物に関するものであって、医薬品の成分を対象とする物の発明であるところ、医薬品の成分を対象とする物の発明について、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両処分の審査事項は、医薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果である。そして、本件処分に先行して、本件先行処分がされているところ、本件先行処分と本件処分とを比較すると、本件先行医薬品は、その用法及び用量を『他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人には、ベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又はmg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする』とするものであるのに対し、本件医薬品は、その用法及び用量を『他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする』などとするものである。そして、本件先行処分によっては、XELOX療法とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売は許されなかったが、本件処分によって初めてこれが可能となったものである。以上の事情からすれば、本件においては、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない」と述べている。

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