知財高裁(平成27年11月26日)“青果物用包装袋事件”は、「物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について・・・・実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する」、「原告は、本件明細書における実施例及び比較例には、湿度条件の記載がなく、これが全く考慮されていないところ、湿度条件が青果物の鮮度保持へ多大な影響を及ぼすことを熟知している当業者であれば、本件明細書に記載された実施例を見ても、鮮度保持効果の有無について認識することができず、本件発明1及び2の青果物用包装袋を作り、使用するために、湿度条件を変えて何度も鮮度保持実験をしなければならず、過度の試行錯誤が必要となる旨主張する。本件明細書に記載された実施例及び比較例における鮮度保持効果の検証実験は、包装袋に青果物を入れて数日間保管するというものであって、明細書に記載された保管温度や保管期間以外の条件については、当業者において、技術常識に照らして適当と考えられる条件を設定することで、特段の試行錯誤を要することなく行い得るものであると認められる。原告は、湿度条件の記載がないことを指摘するものの、・・・・特許法36条4項1号は、実施例や比較例に記載された実験を完全に同一の条件で再現し得るまでの記載を要求する趣旨の規定であるとは解されないから、湿度条件の記載がないことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとはいえない」と述べている。 |