東京地裁(平成27年11月30日)“透明不燃性シート事件”は、「認定事実によると、ガラス組成物の屈折率については、いくつかの測定方法があり、測定方法が相違すると、測定値も異なることがあるというのである。ところが、本件各特許の特許請求の範囲の記載では、屈折率の測定方法が特定されていないし、また、本件各明細書における発明の詳細な説明にも、ガラス組成物の屈折率の測定方法は記載されていない。そうすると、本件各発明における『ガラス繊維を構成するガラス組成物』の『屈折率』は、いかなる測定方法による屈折率であるかが不明であり、測定値を一義的に定めることができないから、その内容が特定されているとはいえない。したがって、『ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下』という構成要件(1E・2E)は、その範囲を具体的に特定することができず、明確性を欠くものといわざるを得ない」、「これに対し、原告は、樹脂組成物の屈折率については、本件各明細書において『硬化樹脂層の屈折率測定方法は、JISK7142の『プラスチックの屈折率測定方法』・・・・に従う。』・・・・と記載され、測定方法が特定されていることを指摘した上、差をとる対象である個々の屈折率は同じ測定方法で測定するものと考えるのが合理的であるから、ガラス組成物についても樹脂組成物と同じ測定方法によることが当業者に明らかである旨主張して、本件各発明における『ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下』・・・・という構成要件は明確である旨主張する。しかしながら、証拠・・・・によれば、『JIS K7142の『プラスチックの屈折率測定方法』』には、フィルムを屈折計を用いて測定するA法(当サイト注:臨界角法)と、粉体を顕微鏡を用いて測定するB法(当サイト注:浸液法)とがともに含まれることが認められるから、そもそも、原告が引用する本件各明細書の上記記載部分によっては、硬化樹脂層の屈折率の測定方法は、未だ特定されているとはいえない。また、証拠・・・・及び弁論の全趣旨に照らすと、測定対象となる試料に応じて屈折率の測定方法も異なり得るから、ガラス組成物と樹脂組成物との屈折率の差をとるからといって、ガラス組成物の屈折率の測定方法について、樹脂組成物の屈折率と必ずしも同一の測定方法がとられると断定することはできない。それにもかかわらず、原告は、本件各明細書において、わざわざ『硬化樹脂層の屈折率測定方法は、JIS K7142の『プラスチックの屈折率測定方法』・・・・に従う。』と説明する一方、『ガラス繊維織物』ないし『ガラス繊維を構成するガラス組成物』の屈折率測定方法について全く言及していない。そうすると、・・・・本件各発明については、屈折率の差・・・・が一義的に特定されず、ひいては、本件各特許の特許請求の範囲の記載を読む者において、本件各明細書の記載を参酌しても、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うおそれがあるものとなっているというほかはない。したがって、原告の上記主張は採用することができない」、「以上によると、本件各特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明を明確に記載したものということができない。したがって、本件各発明についての特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項四号に該当するから、・・・・特許無効審判により無効にされるべきものである」と述べている。 |