知財高裁(平成27年12月16日)“シートカッター事件”は、「原告は、本件審決が、本件補正事項1(本件出願当初の請求項1の『シートカッター』の記載を『カッター』と補正した事項)に係る本件補正は、新規事項の追加に当たらず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとはいえない旨判断したのは誤りである旨主張する」、「『シートカッター』の切断対象物として本件出願当初明細書に明示されているものは、ノンスリップシート及び壁紙などのシートである」、「他方で、@本件出願当初明細書には、『本発明』は、直定規とカッターナイフを使用してノンスリップシートなどを切断する従来の道具には、光の向きや照度により見づらく、きれいに切断しにくいという欠点があったため、そのような欠点をなくすことを課題とし、その課題を解決するものであること・・・・、A『本発明』の『シートカッター』と従来からあるカッターナイフは、刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断対象物を切断するという点で、同じ作用を有するものであり、また、本件出願当初明細書には、『本発明』の『シートカッター』が、別紙図面の図3に示すように、『カッターナイフの刃』を備えていることが示されていること・・・・、Bカッターナイフの切断対象物は、シートに限られず、刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することができるもの全般に及ぶことは、広く一般的に知られた事項であることに照らせば、本件出願当初明細書記載の『シートカッター』は、その切断手段の構成上、シート以外の対象物であっても、刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することのできるものであれば当該対象物の切断の用途に用いることができることは、本件出願当初明細書の記載から自明であるといえる。そして、本件補正後の請求項1記載の『カッター』は、本件出願当初明細書記載の『シートカッター』と同様、ガイド板を有し、ガイド板から刃を出した状態で切断対象物を切断するものであって、切断手段の構成という点では上記『シートカッター』と同じであり、その切断対象物は、シートに限定されないが、あくまでも、刃を切断しようとする箇所に沿って移動させて切断することができるものしか切断することができないことは明らかであるから、本件出願当初の請求項1の『シートカッター』と比べて切断対象物の範囲が無制限に広がるというものではない。以上によれば、本件補正事項1に係る補正は、本件出願当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであると認められるから、本件出願当初明細書に記載した事項の範囲内においてする補正であるといえる。したがって、本件補正事項1に係る本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているものと認められるから、本件審決の判断に誤りはない」と述べている。 |