知財高裁(平成7年4日)“ピタバスタチンカルシウム塩の結晶事件「本件・・・発明の構成要件C・・・においては、4.°、6.°、9.°0.°0.°3.°3.°3.°8.°0.°1.°3.°4.°及び7.°の回折角(2θ)にピークを有することをもって規定されており、ピタバスタチンカルシウム塩の結晶が5本のピークの小数点以下2桁の回折角(2θ)を有することにより特定されている。他方、本件発明・・・に係る特許請求の範囲(請求項1)・・・には、上記回折角の数値に一定の誤差が許容される旨の記載や、上記5本のピークのうちの一部のみの対比によって特定される旨の記載はない」、「以上によれば、特許請求の範囲の記載に加え、本件・・・明細書の記載を参酌したとしても、本件・・・発明の構成要件C・・・を充足するためには、5本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し、その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶・・・は、本件・・・発明の技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である」、「控訴人は、・・・・本件優先日当時、粉末X線回折法においては、ピークの同一性は、±0.2°以内であれば同一と判断し得るというのが、当業者の技術常識であったから、本件・・・発明の構成要件C・・・に規定された回折角の2θ値の数値も、当業者の・・・・技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する」、ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態には、・・・・本件明細書・・・・の結晶形態・・・・以外にも未知の結晶形態が存在し得るところ、粉末X線回折測定の回折角の数値により結晶形態を特定した結晶多形に係る特許出願には、その特許請求の範囲に、回折角について特定の数値のみを記載しているものが見られる一方で、回折角の数値に『付近』又は『約』を付しているもの、±0.1°〜±0.2°の幅を設けるもの、これを超えて±0.3°、±0.5°等の幅を設けるものも、数多く存在する・・・・。上記事実に照らせば、本件優先日当時、粉末X線回折測定による回折角の数値であれば、特段の言及なくして『±0.2°以内』という許容誤差が当然に認められるというのが当業者の技術常識であったと認めることはできない。粉末X線回折測定では、測定に用いる機器の測定誤差や測定試料の状態により、同じ結晶を測定した場合であっても、常に厳密にピークの回折角の数値が一致するものではないとしても、上記のとおり、特許出願の際、特許請求の範囲に記載された回折角の数値に幅を設ける範囲も一様でないことに照らせば、特許請求の範囲や明細書中に、回折角の数値に一定範囲の誤差が許容されることや許容誤差の範囲について何ら記載がない本件・・・・発明について、測定誤差による数値バラツキを考慮することは、技術的範囲の属否が一義的に定まらないこととなり、相当でない。本件・・・・発明の特許請求の範囲にも、本件・・・・明細書にも、構成要件C・・・に規定する回折角の数値の許容誤差の範囲に関する記載がない以上、特許請求の範囲に記載された回折角の数値の許容誤差の範囲を一義的に定めることはできないといわざるを得ない」、「以上によれば、控訴人の主張する技術常識は認めるに足りず、回折角の数値について±0.2°以内の誤差を認めるべきであるとする上記主張は、理由がない」、「控訴人は、・・・本件優先日当時、粉末X線回折法においては、同一の結晶か否かは、0本以上のピークが確認されれば十分であり、場合によっては、それより少ないピークであっても、同一の結晶と判断できることもあるというのが、当業者の技術常識であったから、本件・・・発明の構成要件C・・・に規定された回折角も、当業者の上記技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する」、「しかし、そもそも、X線回折測定の回折角により結晶形態を特定した発明に係る特許出願には、結晶形態を特定するピークの本数が数本のものから十数本のものまで様々であり・・・・、何本のピークを特許請求の範囲に記載するかは、出願人の判断に委ねられているのであるから、5本より少ないピークが一致すれば本件・・・発明の構成要件C・・・を充足する旨の控訴人の主張は、失当である」と述べている。

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