東京地裁(平成7年20日)“水消去性書画用墨汁組成物事件被告は、本件特許の特許公報の公開までの間は、同条に基づく過失の推定は覆滅されると主張する。そこで判断するに、特許法は、特許権は設定の登録により発生する(6条1項、登録があったときは特許権者の氏名等を特許公報に掲載する(同条3項、特許公報は特許庁が発行する(193条1項)と規定するところ、登録から特許公報の発行までは、事柄の性質上、ある程度の期間を要すると考えられるから、特許権発生後、特許公報が発行されていない期間が生じることは、同法の規定上、予定されていると解される。一方、同法103条は、単に『特許権』を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定される旨規定し、特許権の発生時(登録時)から過失による不法行為責任を負うことを原則としており、特許公報の発行を過失の推定の要件と定めてはいない。また、同条が過失の推定を定めたのは、発明を奨励しもって産業の発達に寄与するという法目的(同法1条)に鑑み、特許権者の権利行使を容易にしてその保護を図るためであることは明らかである。以上の特許法の諸規定に照らせば、特許公報の発行前であることのみから過失の推定が覆されると解することは相当ではない。したがって、被告の上記主張を採用することはできない」と述べている。

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