知財高裁(平成27年3月11日)“傾斜測定装置事件”は、「不法行為による損害賠償請求が認められるためには侵害されたとする権利ないし利益が法律上保護されたものであることを要する(民法709条参照)。発明をした者が、その発明について特許を受け、その氏名を特許証に『発明者』として記載されることは、発明者の名誉といった人格的利益に関するものであって、法的に保護されるものである(発明者名誉権。特許法26条、工業所有権の保護に関するパリ条約4条の3参照)。しかし、このような発明者名誉権は飽くまでも特許制度を前提として認められる人格権であるから、発明(特許法2条1項参照)を完成することにより生じる人格的利益がすべて当然に法的に保護されることになるものではない。発明が新規性、進歩性の特許要件を充たさず、特許を受けることができないとする旨の拒絶査定が確定した場合には、当該発明の完成により発明者の人格的利益(名誉)が生じたとしても、一般的には、その社会的評価は法的保護に値する程高くはないことが多く、そうではないことなどの特段の事情がない限り、その侵害が不法行為になるとまではいえないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、・・・・本件発明(当然ながら本件出願の願書に記載された発明に限られる。)は、本件拒絶査定が確定しているだけでなく、引用文献から容易に想到することができたもので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであることが明らかであったものと認められ、その発明に対する社会的評価が高かったことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。以上によれば、控訴人が本件発明に係る発明者名誉権の侵害を理由として不法行為による損害賠償を請求することはできない」と述べている。 |