知財高裁(平成7年48日)“蓋体事件「特許法102条2項には、特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと、・・・・同項は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって、その効果も推定にすぎないことから、同項を適用するための要件を、殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきであることなどを総合すれば、特許権者が当該特許発明を実施していることは、同項を適用するための要件ということはできず、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。これを本件についてみると、被控訴人が原特許発明の実施品を製造販売しているものの、本件各特許発明の実施品を製造販売していないことについては当事者間で争いがないが、原特許発明と本件各特許発明は、食材を収容するとともに加熱可能な容器に関する蓋体の発明である点では共通するものであり、原特許発明の実施品と本件各特許発明の需要者は共通するものといえる。そうすると、本件特許権侵害に係る控訴人の行為によって、被控訴人の原特許発明に係る実施品の販売機会が喪失したことが認められるから『特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合』に当たるということができる。したがって、本件における控訴人の損害額の算定に当たっては、特許法102条2項の適用を認めるべきである」と述べている。

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