知財高裁(平成7年48日)“ポリイミドフィルム事件「本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても、4、4’−ODA/BPDAの2成分系フィルムについては、本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは、当業者が実施可能であったということはできない」、被告は、この点について、本件発明9の熱膨張係数とならない2成分系ポリイミドフィルムが存在しても、それは、本件発明9の範囲には含まれず、本件発明9の実施品ではないから、そのような2成分系ポリイミドフィルムが存在することは、本件発明9が実施可能要件に違反することを意味するものではなく、請求項9記載の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分のすべての材料の範囲について、所定の熱膨張係数が達成できることを充足する立証が必要であるとすることは合理的でなく、本件発明9の構成において、実施可能要件に関し、ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて本件発明9の範囲内の数値が得られる条件を解明し立証する必要はない旨主張する。しかし、本件発明9の請求項9における発明特定事項として、ポリイミドフィルムの原料を特定の群から選ばれる『1以上の芳香族ジアミン成分』と『1以上の酸無水物成分』を用いることを特定している以上、この請求項9の範囲内に含まれることが明らかであるODA/BPDAについて、本件発明9の熱膨張係数とできることが、実施可能要件を充足するために必要であるというべきである。したがって、被告の上記主張は採用することができない」、以上によれば、2成分系ポリイミドフィルムのうち、少なくとも4、4’−ODA/BPDAについては、当業者が、本件明細書及び本件優先日当時の技術常識に基づいて製造することができるということはできないから、本件発明9のポリイミドフィルムは、実施が可能ではないものを含むことになる。そうすると、本件発明1〜8、0、1についても、実施が可能ではないものを含むこととなるから、本件発明について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているということはできない。したがって、本件発明は実施可能要件を充足するとはいえない」と述べている。

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