知財高裁(平成27年7月30日)“証券取引所コンピュータに対する電子注文事件”は、「考慮すべき要素として認められるものを総合して、 被控訴人発明規程に基づいて本件発明に対して相当対価を支払わないとしたことが、不合理であるか否かについて判断する。まず、平成16年・・・・による特許法35条の改正の趣旨は、同改正前の旧35条4項(サイト注:現7項)に基づく相当対価の算定が、個別の使用者等と従業者等間の事情が反映されにくい、相当対価の額の予測可能性が低い、従業者等が職務発明規程の策定や相当対価の算定に関与できていないとの問題があるという認識を前提に、相当対価の算定に当たっては、支払に至る手続面を重視し、そこに問題がない限りは、使用者等と従業者等であらかじめ定めた自主的な取決めを尊重すべきであるというところにある。そこで、検討するに、・・・・被控訴人発明規程は、控訴人を含む被控訴人の従業者らの意見が反映されて策定された形跡はなく、対価の額等について具体的な定めがある被控訴人発明規程2に至っては、控訴人を含む従業者らは事前にこれを知らず、相当対価の算定に当たって、控訴人の意見を斟酌する機会もなかったといえる。そうであれば、被控訴人発明規程に従って本件発明の承継の対価を算定することは、何ら自らの実質的関与のないままに相当対価の算定がされることに帰するのであるから、特許法35条4項の趣旨を大きく逸脱するものである。そうすると、算定の結果の当否を問うまでもなく、被控訴人発明規程に基づいて本件発明に対して相当対価を支払わないとしたことは、不合理であると認められる」、「被控訴人は、特許法35条4項に定める『協議の状況』『基準の開示の状況』『意見の聴取の状況』は、不合理性を判断するための必須の要素ではない、その他の要素も上記3要素と同等の重みがある旨を主張する。確かに、上記『協議の状況』『基準の開示の状況』『意見の聴取の状況』は、不合理性の認定のための考慮要素にすぎず、『協議』『基準の開示』『意見の聴取』が合理性の認定のための要件となるものではないから、『協議』『基準の開示』『意見の聴取』の存否それ自体を問題とすべきものではない。その限度においては、被控訴人の上記主張は正当である。しかしながら、『協議』『基準の開示』『意見の聴取』は、一般的に、適正な手続のための基本的要素であるところ、被控訴人発明規程は、そのいずれについても不十分であると認められ、また、その余の手続面について考慮すべき事情は、本件証拠上、何らうかがうことができない。そうであれば、その他の要素を考慮するまでもなく、被控訴人発明規程に従って本件発明の対価を算定することは、不合理と認められる。被控訴人の上記主張は、採用することができない」と述べている。 |