知財高裁(平成7年90日)“ピストンリング事件無効審決の確定により、特許権は初めから存在しなかったものとみなされるが(特許法125条本文、無効審決が確定するまでは、たとえ当該特許に無効理由があるとしても特許権は一応有効なものであって、事実上の独占力を有するものとして取り扱われる。すなわち特許権に無効理由があったとしても、当該特許権の行使の結果生じる独占の利益を享受できることとなる。したがって、本件特許1について本件訴訟提起後に無効審決が確定したとしても、そのことは、それまでに一審被告の得た利益の額に直ちに影響を及ぼすものではないといえる」、「本件特許1については、明細書の発明の詳細な説明の一部を訂正することにより、本件特許1の分割出願は新たな技術的事項を含むものとして分割要件に反するので、出願日の遡及が認められず、その結果、本件原出願の公開特許公報により新規性を欠くという審決が指摘する無効理由を回避し得る可能性があったということができる。そうすると、・・・・本件特許1について無効審決が確定したとしても、このことは超過売上げの割合及び仮想実施料率を認定するに当たり総合考慮すべき諸事情の中の一要素となり得るにとどまるものといえる。さらに、上記の事情に加え、本件特許1についての無効審判が一審被告訴訟代理人の1人により本件訴訟提起後に請求されており、無効審判手続で提出された答弁書において、請求人の主張を認容する旨の主張をしていること、一審被告が無効審判において訂正の手続等の無効理由を回避する手段を講じていないことなどの本件審判手続における一審被告側の対応等を考慮すると、本件特許1について、超過売上げの割合及び仮想実施料率を認定するに当たっても、無効審決が確定したことを特に考慮することはできないといわざるを得ない」、「本件発明2について、競業他社が主張する無効理由は、本件原出願の公開特許公報による新規性又は進歩性の欠如が一見して明らかなものであったとは認められない。このような場合、特許権侵害の警告を受け、又はライセンスを受けようとする者が、その交渉を自己に有利に進めるべく、本件発明2が進歩性を欠き無効理由が存在する旨を一審被告に対し主張したとしても、特許庁のした無効審決とか、侵害訴訟において裁判所が特許法104条の3の抗弁を理由があると認めて判決をした場合等の裏付けもない状況の下で(本件においては、本件口頭弁論終結日現在、いまだ本件特許2について、無効審判が請求され、無効審決が確定しているなどの事実は認められない。)、超過売上げの割合及び実施料率を低廉化させられ得るとは直ちに考え難い。そうすると、本件特許2について、超過売上げの割合及び仮想実施料率を認定するに当たっても、競業他社から無効理由を指摘されたことを特に考慮することはできない」、「一審被告は、・・・・特許の無効理由の存在からすれば、一審被告に独占の利益はなく超過売上げは存在しないと主張する。しかし、・・・・無効理由が存在することのみをもって特許発明の独占の利益が否定されるものではないし、本件においては、無効理由を回避する手段を講じることも可能であったというべきであるから、一審被告の主張は失当といわざるを得ない」と述べている。

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