知財高裁(平成28年1月14日)“非球面レンズを有する拡大ルーペ事件”は、「甲3の3文献の・・・・記載・・・・によれば、手術等で使用される拡大鏡において、対物レンズの上部及び下部を円形とせず直線状ないし略直線状にするとともに対物レンズを保持する筒の上部及び下部を円筒とせず平坦ないし略平坦にして拡大鏡の上部及び下部を平坦ないし略平坦にするとの周知技術3の構成を採用する目的は、拡大鏡を軽量化することにあると認められる。また、拡大鏡を軽量化することについて明記はされていないものの、甲3の1文献及び甲3の2文献においても、拡大鏡の重量に関する記載があるなど、軽量化がその課題とされていることが認められることに照らすと、手術等で使用される拡大鏡において、周知技術3の構成を採用することの目的は、拡大鏡を軽量化することにあるものと理解することができる。そして、拡大鏡の重量によって手術等での着用時にズレ落ちるといった煩わしさを解消するために拡大鏡の軽量化が欠かせないことは当業者にとって自明な技術的事項であり、拡大鏡の軽量化のために、当業者が、引用発明に周知技術3を適用する動機付けがあると認められる。さらに、引用発明及び周知技術3は、いずれも同一の技術分野に属するものと認められるから、引用発明に周知技術3を適用することついて阻害要因とすべき事情は認められない。次に、引用発明に周知技術3を適用する場合に、相違点2に係る構成として周知技術3をそのまま適用するか、あるいは、周知技術3の構成のうち対物レンズの上部に関する部分の技術のみを適用するか、下部に関する部分の技術のみを適用するかは、実現すべき軽量化の程度の問題にすぎないから、いずれを採用するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるといえる。そして、甲3の1文献ないし甲3の3文献の前記各記載によれば、周知技術3のうちの上部に関する部分の技術(対物レンズの上部を円形とせず直線状ないし略直線状にするとともに対物レンズを保持する筒の上部を円筒とせず平坦ないし略平坦にして拡大鏡の上部を平坦ないし略平坦にすること)については、視野を拡大鏡から上方に移した場合、拡大鏡を通さない広い視野を得ることができるという優位な効果を奏するものであるといえる。甲3の1文献に『外科医にとっては術野を有効に拡大できると同時に術野以外の視野をも平常時と同様に見え得る拡大眼鏡が必要とされる。』と記載されているとおり、手術中において、拡大鏡を通じて拡大図を得るだけでなく、拡大鏡を通さない拡大鏡越しの視野を得ることも必要であることは、当業者にとって自明のことであるところ、このことは、技術分野が同一である引用発明においても妥当することであるから、拡大鏡越しの広い視野を得るために、当業者が、引用発明に、周知技術3のうち上部に関する部分の技術を適用することの動機付けもあると認められる。そうすると、引用発明において、周知技術3を適用して、対物レンズ8の上部を直線状にするとともに対物レンズを保持する筒16の上部を平坦にして拡大鏡の上部を平坦にすることは、当業者が容易に想到し得たものであると認められる」と述べている。 |