知財高裁(平成8年17日)“フルオレン誘導体の結晶多形体事件本件明細書・・・・の記載によれば、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際に用いる溶媒として、トルエン、キシレンなどの『芳香族炭化水素溶媒』以外に、アセトンなどの『ケトン溶媒、及び酢酸エチルなどの『エステル溶媒』が記載され、また析出開始温度として℃や℃ではなく℃以上』が記載されている。しかし、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際に用いる溶媒は、実施例5では『トルエン』であり、実施例6では『キシレン』である。また、多形体Bの析出開始温度は、実施例5では『』であり、実施例6では『』である。そして、本件明細書には、アセトンなどの『ケトン溶媒』や酢酸エチルなどの『エステル溶媒』を溶媒として用いて多形体Bを析出させたことや、未満で多形体Bを析出させたことは記載されていない。他方、・・・・化合物の分子構造から結晶構造を含めた結晶多形体を予測することは困難であり、所望の結晶多形体の析出条件は、できるだけ多くの条件で網羅的に結晶化を試みることにより見い出すものである。しかも、結晶多形体の析出は、溶媒の種類や結晶開始温度(晶析温度)の影響を受け、とりわけ、溶媒の種類の影響は大きく、溶媒の種類を変えることにより『新たな結晶多形体』が見い出される場合もあることが、本件出願時の技術常識であったことを考慮すると、特定の溶媒や特定の析出開始温度で多形体Bを選択的に製造できたとしても、当該溶媒とは化学構造や性質が異なる溶媒を用いた場合や、当該析出開始温度とは異なる温度で析出を開始した場合に、多形体Bを選択的に製造できるか否かを、実験等により実際に確認することなく予測することは困難であったといえる。したがって、当業者は、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際に用いる溶媒として、トルエン、キシレンなどの『芳香族炭化水素溶媒』に代えて、それとは化学構造も性質も異なる、アセトンなどの『ケトン溶媒』又は酢酸エチルなどの『エステル溶媒』を用いても、多形体Bを選択的に製造できるとは認識できないし、また、析出開始温度を℃ではなく、℃以上未満としても、多形体Bを選択的に製造できるとは認識できないというべきである」、「本件発明1〜本件発明6及び本件発明0には、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際の析出開始温度として以上未満』が包含され、また、それに加えて、本件発明1〜本件発明4及び本件発明0には、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際に用いる溶媒として『ケトン溶媒』及び『エステル溶媒』が包含されている。しかし、上記・・・・のとおり、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるのは、BPEFの粗精製物からBPEFの多形体Bを選択的に析出させる際に用いる溶媒として、トルエン、キシレンなどの『芳香族炭化水素溶媒』を用い、析出開始温度として以上とした場合である。したがって、本件発明1〜本件発明6及び本件発明0は、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識に照らして、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件に適合しない」と述べている。

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