知財高裁(平成28年11月8日)“ロール苗搭載樋付田植機事件”は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であるところ(最高裁判所・・・・平成27年6月5日判決・・・・参照)、本願補正発明1及び2に係る・・・・各記載は、いずれも、形式的にみれば、経時的な要素を記載するものといえ、『物の製造方法の記載』がある、すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。しかしながら、前記最高裁判決が、前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、これを無制約に許すのではなく、前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると、特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、前記の一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であれば、あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。この点、本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は、@透光性あるシート・フィルムを、80〜100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させる、Aこれを稲育苗箱底面に根切りシートとして敷く、Bその上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む、Cこの表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し、根上がりを防止して、覆土も極少なくする、D@ないしCのとおり育苗した軽量稲苗マットを、根切りシートと一緒に巻いて、細い円筒とする、という手順を示すことにより、『内部導光ロール苗』の構造、特性を明らかにしたものと理解することが十分に可能である。また、本願補正発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)も、@80〜100cm長さの稲育苗箱にはめ込んだ、成型した籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材の表面に、A綿不織布等を敷いて種籾の芒、棘毛を絡ませて固定し、根上がりを防止し、覆土も極少なくして育苗した、軽量稲苗マットに、B透光性あるシート・フィルムを、稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させて被せ一緒に巻いて、細い円筒とする、というように、やはり手順を示すことより、『内部導光ロール苗』の構造、特性を明らかにしたものということができる。そうすると、本願補正発明1及び2に係る前記特定事項は、いずれも、物の構造、特性を明確に表しており、発明の内容を明確に理解することができるものである。したがって、本願補正発明1及び2は、いずれも、特許法36条6項2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はなく、この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的事情がなく、同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである」と述べている。 |