東京地裁(平成28年12月22日)“オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤事件”は、「特許法68条の2は、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が、その特許発明の全範囲に及ぶのではなく、『その延長登録の理由となった第67条第2項(サイト注:現4項)の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)』(以下『政令処分対象物』という。)についての当該特許発明の実施にのみ及ぶ旨を定めている。もっとも、延長登録制度の上記目的が特許権者の研究開発のためのインセンティブを高めるためのものであることに鑑みれば、侵害訴訟における対象物件に、当該政令処分対象物と相違する点があっても、当該対象物件についての製造販売等の時点において、その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど、当該対象物件が当該政令処分対象物の均等物ないしそれと実質的に同一と評価される物といえる場合には、延長された特許権の効力は当該対象物件についての実施行為にも及ぶと解すべきである。そして、本件処分は、いずれも医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認であるが、同法に基づく医薬品の製造販売の承認の審査事項は、医薬品の『名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項』(同法14条2項3号柱書)であるところ、医薬品の成分を対象とする物の発明について、医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項は、『成分、分量、用法、用量、効能、効果』である・・・・。したがって、医薬品の成分を対象とする物の発明に関し、特許法68条の2に基づき存続期間が延長された特許権の効力は、『物』に係るものとして、『成分(有効成分に限らない。)及び分量』(もっとも、『分量』については、延長された特許権の効力を制限する要素とは解されない。)によって特定され、かつ、『用途』に係るものとして、『用法、用量』及び『効能、効果』によって特定された当該特許発明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当であり、さらに、前記のとおり、当該政令処分対象物の均等物やこれと実質的に同一と評価される物に対しても同効力が及ぶものと解すべきである」、「本件処分1及び4の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液50mgであり、本件処分2及び3の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液100mgであり、本件処分5の対象となった医薬品はエルプラット点滴静注液200mgであるところ、本件処分の対象となったエルプラット点滴静注液50mg、100mg、200mgは、いずれも分量が異なるだけで、成分はオキサリプラチンと注射用水のみ(不純物を除く。)で共通し、添加物はない。他方で、被告製品は、いずれも成分としてオキサリプラチン以外に添加物として乳糖水和物を含むものであって・・・・、成分に違いがあるから、本件処分の対象となった政令処分対象物には当たらない」、「オキサリプラチン水溶液に一定の条件を充たす乳糖水和物を添加することは、本件発明との関係において、周知・慣用技術の付加等にすぎないとはいえず、むしろ、ジアクオDACHプラチン二量体の発生を抑制し、オキサリプラチン水溶液の安定性を向上させるという新たな効果を奏するものといえるから、被告製品は、本件処分の対象となった政令処分対象物の均等物ないし実質的に同一と評価される物とはいえない」、「したがって、存続期間延長後の本件特許権の効力は、被告製品の製造等には及ばない」と述べている。 |