知財高裁(平成8年24日)“省エネ行動シート事件請求項に記載された特許を受けようとする発明が、そこに何らかの技術的思想が提示されているとしても、・・・・その技術的意義に照らし、全体として考察した結果、その課題解決に当たって、専ら、人の精神活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体に向けられ、自然法則を利用したものといえない場合には、特許法2条1項所定の『発明』に該当するとはいえない」、「本願発明の技術的意義は『省エネ行動シート』という媒体に表示された、文字として認識される『第三省エネ行動識別領域に示される省エネ行動』と、面積として認識される『省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量』を利用者である人に提示することによって、当該人が、取るべき省エネ行動と節約できる概略電力量等を把握するという、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであるということができる。なお、本願発明においては、・・・・媒体として『省エネ行動シート』を構成として含むものであるが、本願明細書・・・・には『以上の省エネ行動シート作成装置により出力された省エネ行動シートのデータは、プリンタ装置に対してデータ出力して印刷された状態で取り出すことも可能であるし、ディスプレイ装置に対してデータ出力して画面上に表示させることも可能である。また、記録媒体に記録したり、通信装置を利用してネットワーク上の他の装置にデータ送信したりすることも可能である』と記載されているように『省エネ行動シート』という媒体自体の種類や構成を特定又は限定していないから、本願発明の技術的意義は『省エネ行動シート』という『媒体』自体に向けられたものとはいえない」、「前記・・・・のとおり、本願発明の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本願発明の技術的意義に照らすと、本願発明は、その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり、自然法則、あるいは、これを利用するものとはいえないから、全体として『自然法則を利用した技術的思想の創作』には該当しないというべきである。以上によれば、本願発明は、特許法2条1項に規定する『発明』に該当しない」、「原告は、自然法則の利用があるかどうかは、発明の作用、効果ではなく、特許請求の範囲の請求項に記載された構成要件自体(発明特定事項)が自然法則に従う要素であるか否かによって判断すべきであり、本願発明においては、シートは典型的には紙であり、領域や領域名は典型的にはインクによって構成されており、請求項には、紙とインクという自然物によって線画を所定位置に配置するという工夫のみが記載され、本願発明の構成要件のいずれにも精神活動等である構成要件は含まれていないから、本願発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないということはできない旨主張する。しかし、・・・・特許を受けようとする発明が、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するか否かの判断は、前提とする技術的課題、課題を解決するための技術的手段の構成及び技術的手段の構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として考察した結果『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するといえるか否かによって判断すべきものである。そして、明細書の『発明の詳細な説明』の記載に関して、特許法6条4項1号が『発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項(特許法施行規則第4条の2)により『その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること』と定めていることからすれば、特許を受けようとする発明の技術上の意義の把握は、同法6条5項が定める特許請求の範囲の請求項に記載された発明の発明特定事項(構成要件)だけではなく、明細書の発明の詳細な説明をも参酌すべきである。 また、特許請求の範囲の請求項3には、本願発明が、紙やインクによって構成されることは特定されていないから、原告の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものということはできない。また、本願明細書を参酌しても『省エネ行動シート』は、プリンタ装置で印刷される態様だけではなく、少なくとも、ディスプレイ装置の画面上に表示される態様も記載されているように、本願発明は『省エネ行動シート』という媒体自体の種類や構成を特定又は限定していないから、本願発明の技術的意義が『省エネ行動シート』という媒体自体に向けられたものではなく、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであることは、前記・・・・のとおりである。したがって、原告の上記主張は、採用することができない」と述べている。

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