大阪地裁(平成28年2月29日)“棚装置事件”は、「特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する特許法102条2項の推定を覆滅できるか否かは、侵害行為によって生じた特許権者等の損害を適正に回復するとの観点から、侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか、市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等といった営業的要因や侵害製品の性能、デザイン、需要者の購買に結び付く当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して判断すべきである」、「本件訂正発明1(サイト注:本件特許権1に係る発明)及び本件再訂正発明2(サイト注:本件特許権2に係る発明)は、コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関する発明であり、内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができるという作用効果(本件訂正発明1)、コーナー支柱にある突起と棚板の外壁にある穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されてガタ付きを防止する、また、内壁が補強機能を果たす、ナットが内壁と外壁との間の空間に隠れているため、体裁を良くして、物品が引っ掛からないといった作用効果(本件再訂正発明2)を奏するものであり、棚装置全体に係る発明である。したがって、本件訂正発明1ないし本件再訂正発明2は、被告各製品の特徴的機能に大きく寄与しているものと認められる。そして、実際にも、被告の2012年(平成24年)及び2013年(平成25年)総合カタログのCSワゴンシリーズ(被告各製品の属するシリーズ)の総括的な案内頁において、『堅牢、安全、美観 三拍子揃った新しいワゴンす。』との記載があり、棚板の内側が見える斜視方向の写真と共に、『堅牢』として、外壁と内壁の構造が示された棚板断面図に加え、棚板の立ち上げ部分が断面図のような構造になっているため非常に堅牢である旨の説明がされ、『安全』、『美観』として、外壁と内壁との間の取付ナットの位置や取付ネジの状況が分かる棚板断面図が示され、『棚板を止めるネジは棚の内側から見えない形になっている(棚の内側に突起物がない)為、美観と安全性を向上しています。』と説明されている・・・・。他方、被告各製品のうち、被告の2014年(平成26年)及び2015年(平成27年)総合カタログの被告各製品の一部には、被告が保有する、特許権(第5515123号)による『突き合わせ内蔵方式』(CSツールワゴン、CSスーパーワゴン及びCSスペシャルワゴンについて)、特許権(第5369263号)による『直進安定金具』(CSスペシャルワゴン及びCSパールラックワゴンについて)、が採用されていること、また、従前被告が有していた実用新案権(消滅している。)である『ダブルテーパー加工』(CSパールワゴン、CSパールラックワゴンについて)が用いられていること、『突き合わせ内蔵方式』が被告独自の堅牢構造であることが記載されている・・・・。もっとも、これらの年のカタログでも、被告各製品が属するCSワゴンシリーズの総括的な案内頁には、それまでと同様、堅牢性について、棚板の内側が見える写真と共に棚板の立ち上げ部分が写真のような構造になっているために非常に堅牢である旨、ネジが棚の内側から見えない形となっているため、美観と安全性を向上している旨の記載がされていること・・・・からすれば、それらによる棚板の構造が堅牢性、美観及び安全性に寄与している反面、『突き合わせ内蔵方式』の実施が製品全体の堅牢性にどの程度寄与しているのかについては必ずしも明らかではない。また、『直進安定金具』は、キャスターの回転を止める金具が付属しているものであり、『ダブルテーパー加工』は棚板の支柱と固定する部分の加工で棚板の上下を組み替えることができるものであるところ・・・・、これらは、被告各製品の一部に採用されているものではあるが、使用用途により、購入者の選択の一要素となると認められる」、「以上に加え、被告製品2及び3の製造販売が本件特許権1のみの侵害にとどまることを併せ考慮して総合すると、被告各製品による対象期間全体を通じた本件各特許に係る特許権の侵害について、覆滅割合としては、20%と認めるのが相当である」と述べている。 |