東京地裁(平成28年3月17日)“接触端子事件”は、「特許請求の範囲の記載をみるに、本件発明は、コイルバネで付勢してプランジャーピンを突出させる接触端子に関するものであり(構成要件A〜C)、コイルバネがプランジャーピンを直接押圧するのではなく、コイルバネとプランジャーピンの間に『押付部材』が介在し、これがコイルバネから付勢を受けて、その『球状面からなる球状部』がプランジャーピンの傾斜凹部を押圧することに特徴がある(構成要件D1〜3)。この『押付部材』という語は当該部材が果たす機能をそのまま記述したものであるところ、その形状に関しては、プランジャーピンの傾斜凹部に押圧される部分が『球状面からなる球状部』であるとされるのみであり、それ以外の部分(コイルバネから付勢される部分、コイルバネ側とプランジャーピン側の中間部分)の形状については特許請求の範囲に何ら記載がない。そうすると、上記押圧される部分が球状に丸くなっていればそれ以外の部分はいかなる形状でもよいと解する余地がある。他方、押付部材の形状は、上記機能を果たし得るものに限定されると考えられる上、同機能を果たすものであればいかなる形状の部材でも本件発明の技術的範囲に含まれるとすることは、現に発明をして明細書に開示した範囲で保護を与えるという特許制度の趣旨に反しかねない。そこで、特許請求の範囲に記載された『押付部材』の語の意義を解釈するため、本件明細書・・・・の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮することとする」、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、『押付部材』との語は一切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として開示されているのは『絶縁球』のみであり、図面に示されたのも球のみである。すなわち、本件発明は、背景技術として、コイルバネが直接プランジャーピンに触れるとコイルバネに電流が流れて焼き切れてしまうので、プランジャーピンとコイルバネの間に絶縁球を介在させた接触端子が存在したことを前提に比較的大きな電流を流し得る接触端子を提供することを目的として・・・・、プランジャーピンの大径部(コイルバネ側)の端部を切削して袋孔を形成し、その底部を円錐面とするとともに、円錐の中心軸とプランジャーピンの中心軸をオフセットさせることによって、プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面に強く押し付け、確実に電流を流すことができるようにしたものである・・・・。そして、実施例及び参考例をみても、押付部材に相当する部材としては『絶縁球』のみが記載されている・・・・。以上のとおり、押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみであり、これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当たらない。そうすると、本件明細書の記載を考慮すると、本件発明における押付部材の形状は球に限られると解するのが相当である」と述べている。 |